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<旅のおわり世界のはじまり> 広大な自然をバックに映し出される前田敦子に神々しさを感じた

   日本とウズベキスタンの国交樹立25周年、及びナヴォイ劇場完成70周年記念の国際共同製作作品。黒沢清監督がオリジナル脚本を執筆。

   バラエティ番組の企画でウズベキスタンにきたレポーターの葉子(前田敦子)はミュージカル女優を夢見ているが、本当にやりたいことから自分が離れてしまっていることに焦りを感じていた。お目当てである巨大な湖にすむ幻の怪魚はなかなか現れず、異国の地での撮影は思うように進まない。ある日の撮影後、東京にいる恋人に絵葉書を出すため一人で郵便局へと出かけると、噴水の向こうに建つ壮麗な建物が目に入る。かすかに聞こえる歌声に導かれ中に入っていくと、劇場であった。葉子はそこで夢と現実が交差する不思議な体験をする。

  • (C)2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO
    (C)2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO
  • (C)2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO

異国の地でヒロインを追い込む演出がうまい

    生焼けの郷土料理を美味しそうにレポートし、今にも壊れそうな絶叫マシンに三回連続で乗せられ、グッタリしながらもカメラが回れば笑顔を戻す。前田敦子演じる葉子のそんながんばりが胸を打つ。バスの中で着替えていると周りから好奇の目にさらされるなど、異国の地というアウェイな環境がさらに彼女を追い込む。

   撮影後に一人で町に繰り出す葉子は、終始うつむき加減で周りをシャットアウト。何を尋ねられても「ノー」で弾き返し、バザールでの買い物は持っているお金を見せて店員に取ってもらう。危なっかしい彼女の小さな冒険を、現地の言葉に字幕が当てられていないこともあり観客も疑似体験する。どうにかホテルに戻った葉子は、日本にいる恋人に連絡をとるが寝てしまったようで返信がこない。ここまで気丈に振る舞っていた女性が、唯一弱音を吐ける場所をも閉ざされてしまったような孤独感。異国の地での不安や状況を利用しての葉子を追い込む演出が非常にうまく、前田敦子本来の魅力と共に観客は彼女を応援せずにはいられない。

 

   バラエティ番組撮影の舞台裏というドキュメンタリーテイストの強いテイストだからこそ、ミュージカル女優志望の葉子が「愛の賛歌」を歌う場面での虚構が際立ち大胆な映画的飛躍がある。広大な自然をバックに映し出される葉子=前田敦子の姿には、神々しさをも感じた。

   シャーク野崎

   おすすめ度☆☆☆☆