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有権者はシラケきってた参院選――政治って何にも変えてくれないでしょ

   7月21日(2019年)に投開票された参議院選挙では、NHKの出口調査で消費税引き上げに賛成する人は43%、反対する人は57%だったが、反対すると答えながら、比例区の投票では、野党ではなく自民党に投票する人が多数だった。

   安倍首相の街頭演説でも、「現状維持」を求める声が多く聞かれた。10カ月の子供を育てる母親は自民党に投票したという。消費税率の引き上げで育児費や教育費が増えることを懸念しているが、「文句を言って消費税増税が変わるのかといえば変わらない。不安はあるけど、それなら今の与党のままでいいのかなと」と話す。夫も「長く続いている政権を安定させて応援するのが得策」と考えている。

   自民党に投票した34歳の男性は、かつて政権交代を期待して民主党に投票したが、今回は自民党に投票した。当時はバイトを転々とする生活だったが、今は介護の仕事に就き、年収は約300万円。「今の給与水準だと、結婚して子供を作ることは厳しい。もっと賃金や雇用が改善されることを望んではいるが、野党には期待できない。野党よりは現状維持のほうがまし」という。

   これら現役世代の声を聞いて、政治学者で東京大学の御厨貴・名誉教授は「暗い気持ちになりますね。彼らの気持ちがわかるとしたら、選挙前から"与党が勝つよね、野党は負けるよね"という空気が蔓延して、1票で変えようという人がいなかった。政治の中で、変えるという価値観が見えなかった感じがします」と解説する。

   投票行動を研究している慶応義塾大学大学院の谷口尚子准教授は「今回は結果が見えてしまって、支持していようが不満があろうが、投票に行くインセンティブがなくなった」と見ている。

「2000万円足りないなら、自分で貯めれば裏切られないですむ」

   もうひとつ見えてきたのは、失われた20年に育った現役世代は、政治への期待の度合いが低くなり、自分の身は自分で守ると思うようになっていることだった。それが、「政策で変えてもらった経験ないから、政治にアクションを起こして変わるという実感がない」「今の生活を変えるには自分が頑張るしかない」「2000万円必要なら、自分で頑張って働き貯金すれば、裏切られることもない」などの声になっているようだ。

   18、19歳の投票率は15.45%で、前回参院選の31.33%に比べて大きく下がっている。谷口准教授は「若者世代の生活スタイルは、多様なニーズがオンデマンドですぐに満たされる便利な世の中にある一方、政治は地域社会や利害関係者がいて、変えていくのに時間がかかります。彼らから見たら、遠いスタイルになっているのです」と分析する。

   御厨教授は「平成時代は政治改革の時代で、政党が合従連衡した結果、共産党以外は全部与党を経験した。その結果、多くの政党が与党にならないと政治ができないと考える『与党病』になってしまいました。野党のうちに大きな問題を考えて基盤を作るのが本来なのに、それをせず、与野党とも政治が刹那的になってしまった。大きなビジョンも本気さもないことが、国民に見透かされてしまっています」と指摘した。

バルバス

NHKクローズアップ現代+(2019年7月23日放送「1票に託したホンネ 参院選 有権者の"新潮流"」)