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無罪判決でも「シロ」にはならなかった東京電力旧経営陣3被告――原発の安全対策先送りの責任なし?

   東京電力福島第一原発事故をめぐり、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電の勝俣恒久元会長(79)ら旧経営陣3被告は、東京地裁で無罪とされたが、去年(2018年)8月の公判では、現場担当者が「できるだけ早く」と津波対策の強化を求めていたことが明らかになった。証言した土木調査グループの担当課長は、巨大津波を「考慮すべきとの結論に達していた」と証言した。

   東電社内で2008年2月に作られた資料には、非常用の排水ポンプや建屋の防水性強化の必要が記されていた。これが勝俣氏ら経営幹部40人が集まって毎月1回開く会合「御前会議」に提出されたが、とくに意見は出なかった。資料作りにかかわった元社員は、「会合は取締役会への意思形成の場で、その後に外されることはめったにないので、認識されたと理解していた」と話した。

   ところが、原発対策の事実上の責任者で、被告の1人でもある武藤栄元副社長は、公判では「何かを決める会議ではない。情報を共有する会議だ」と反論した。

   資料提出から1か月後には、国の長期評価にそって試算すると最大高さ15・7メートルの津波が日本海溝で発生し得るとの分析も出された。半年後の会議では、ずばり防潮堤の必要を訴える報告も出たが、武藤元副社長は「土木学会に見てもらう方がいい」と再検討を指示した。

   この発言に、当時の担当課長やその上司は「呆然としました。予想もしなかった結論で、力が抜けた」「(大震災までに)何かできたのではと思う。どこで間違ったか、一生気になる」と証言した。

   武藤元副社長は公判で「私は原子力立地副本部長(本部長は被告の武黒一郎元副社長)で決定権限はなく、大きなことを決められるわけもない」と強調した。防潮堤建設の対策をとれば、数百億円規模の予算と工期が4年かかる。この安全投資を東電は避けたのかとの疑いはぬぐえない。

技術力はあっても、追いついていなかった人と組織

   取材してきたNHKの大崎要一郎記者は「刑事責任は問われなくても、社会的責任は果たされたのだろうか」と疑問を投げかける。内閣官房の元参与の田坂広志・多摩大学名誉教授は「原発の安全対策は、少しでも疑問があればやるのが当然だが、民間企業は投資を先送りしがちです。国の最終責任でしっかり指示をしていなかったことにも問題があります」と指摘する。

   公判では、福島第一原発から南に110キロ離れた日本原電東海第二原発で、従来の2倍の大津波を考慮した対策を進めていたことを日本原電の関係者が証言した。「防潮堤建設には巨額の費用と時間が必要なので、それより安くすむ盛り土や建屋の防水対策工事を進めていた」という。

   しかし、これは「自主的なもの」として公表されなかった。元幹部は取材に「東電の方針に従うのが慣例で、配慮しながら進める習慣が身についていた」と語る。日本原電はNHKの質問に「詳細については回答を差し控える」としている。

   大崎記者「電力会社の横並び意識、忖度が働いていました。こうした動きを国が把握できていなかったのも問題です」

   田坂教授「この体質・文化を変えないと、国民は信頼できません。安全対策は、技術面はそこそこできても、人と組織と制度がととのっていないと。本当の安全とは言えません」

   東電の地震・津波対策が全国の原発の標準になっていたわけで、他の原発でも福島と同じような事故が起こるということである。

   *NHKクローズアップ現代+(2019年9月19日放送「東電刑事裁判 見えてきた新事実」)