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ある日突然「出て行ってください」閉鎖相次ぐ住宅型老人ホーム!異業種参入で専門知識も経験もなく破綻

   福岡市博多区の住宅型有料老人ホーム「リリーゆたか」は今年(2019年)春、6400万円を超す負債を抱え倒産した。30室が満室だったというが、突然の閉鎖。全員が強制退去させられ、「ほとんど追い出し」「ずっといたかったのに」の声があがった。

   美容師や宅配すしチェーンの店長などを経た30代半ばの男性が、3年前に「理想の介護」「老後の新しい暮らしの提供」を掲げて設立した。月12万円で、負担金の安さや雰囲気の良さから人気だったという。自己破産申請の陳述書には、「人件費に当初の見通しが甘かった」とあった。

   家賃9カ月分を滞納されたという建物のオーナーは、「売り上げは伸びていたはずですが」と話す。元職員は「社長は事務所に来ても1日10分か15分ぐらいしかいなかった」と、運営に問題があったことを明かした。

   こうした住宅型有料老人ホームの閉鎖が各地で続いている。昨年度(2019年)だけで335件の廃止届が出た。

負担額は平均月12万円だが、介護度高いと家族はさらに持ち出し

   住宅型有料老人ホームは、居室と食事を提供して、負担額は平均1人月12万円。介護が必要なときは、外部の事業者を使う。公費が投入される特別養護老人ホームとちがって、設備や人員に明確な基準はない。

   自治体に届ければ設立できる。福祉施設というより在宅介護の延長と位置づけられるため、設立しやすくしてあるのだ。国が公費のかかる特別養護老人ホームの新設を抑え、代わりに住宅型有料老人ホームを受け皿にしようとしているように見える。

   異業種からの参入が多く、この7年間で3倍に増えた。29歳で設立した元経営者は「初期投資が安かった。右手にロマン、左手にソロバンがあったが、利益は出なかった」と語る。

   東洋大の高野龍昭・大准教授は「介護に必ずしも詳しくない人の経営で、老人の特性に応じた態勢をととのえられない」ケースと、「介護への思いはあっても、ビジネススキルが足らず、長続きしない」ケースも少なくないと指摘する。

   30人が入居する老人ホームの一例――。平均年齢は88歳、半数が生活保護を受け、20人が食事や排せつに介助が必要な要介護度3以上。それぞれの程度により介護報酬が支払われる。この制度自体に、実は問題がある。

   89歳男性は要介護度5で生活保護を受け、上限が付き36万円の介護報酬は毎日の起床や就寝介助、週5日のデイサービスだけで消えてしまう。男性は毎晩失禁するため、シーツの洗濯や部屋の掃除が毎日欠かせない。この部分は「自己負担」が原則だが、男性には払えないため、施設が無償でするしかない。その持ち出しが毎月10万円という。

   こうした実状を「在宅介護なら同居の家族が補うが、住宅型有料老人ホームにはそれがない」と高野准教授は解説する。

タレントの新田恵利「うちはまだ在宅だけど、他人事ではないです」

   ゲストの新田恵利さん(タレント)はこう話す。「急に出て行けって言われても、本当に困りますよね。まだうちは在宅で、兄と2人で回ってるので、家で見てますけども。でも、兄か私のどっちかがちょっと体調壊したりしてギブアップしたらば、もう母はやっぱり施設に預けるしかないので、本当にああいうのを見てると、他人事ではなくて。やっと見つけて入った。でも、たった2年で出て行けって言われたら、どうしていいか分かんないですよね」

   対策として、厚生労働省は2020年代初頭までに介護施設を50万人分増やし、多様な住まいの提供を指導するとしている。しかし、要介護の高齢者は660万人から2025年度は771万人と117万人増えると予測される。「50万人分で足りるのか」との批判が出るのも当然だ。

   施設を多様化することにも、「住まいの制度が無数にある中で、さらに必要なのか」とも、高野准教授は疑問を投げる。種類ばかりがいっぱいあっても、介護が充実するとは限らない。

   武田真一キャスター「どういう基準でホームを選んだらいいのですか」

   高野准教授は「安さやきれいさだけで決めない」「複数の施設を見学し、責任者の思いを確かめる」「厚労省ホームページの介護サービス情報公表システムから職員の勤続年数や研修内容を調べる」ことが必要という。実態をよく知っておかないと、多発する住宅型有料老人ホームの閉鎖に突然巻き込まれる可能性がすでにある。

   *NHKクローズアップ現代+(2019年10月3日放送「相次ぐ老人ホーム閉鎖 "終(つい)の住みか"で何が?」)