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知らぬ間に売買されてるあなたの仕事力、性格、経験値・・・SNSの利用履歴からAI解析

   ネット上でつぶやく何気ないひと言や個人情報を知らないうちに集められ、AIによって能力や人格を点数化されてしまうということが、現実に起きている。転職したシステムエンジニアの女性は、知らない企業から突然ヘッドハンティングのメールをもらった。「初めまして。IT技術の知見が特に豊富で、カバー範囲が広いことに感銘を受けました。もしよろしければ一度弊社オフィスに遊びに来ませんか」と書かれていた。

   差出企業は、この女性が勉強中の技術や海外での経験まで把握していた。女性はビックリしながらも、自分の能力を高く評価してくれていると感じ、転職した。現在は、そこで新規事業開発を一手に担っている。

   この女性の能力を見出したのは、別の企業が開発したAI(人工知能)である。この会社はネット上の情報を分析し、隠れた優秀な人材を発掘するサービスを展開している。現在、143万人分のデータベースを構築しているという。

投稿をつなぎ合わせて人物像を生成

   AIが分析するのは、ツイッター、フェイスブックといったSNSやブログの記事だ。バラバラに投稿された情報をつなぎ合わせ、その人物像を生成し、評価していく。「いいね」の数、「いいね」をつけた人のレベルまでが計算・評価されているという。社長は「この技術を使えば、その人の天職に近いものをレコメンドできるのではないか」と話す。

   AIで採用予定者などのリスクを見つけ出そうという会社もある。企業から提供された履歴書の名前・年齢・学歴などの情報をもとに、対象者の同意を得たうえで調査を行う。SNSでの言葉遣いや投稿の時間などから、攻撃性、自己顕示欲、社会性などを数値化する。「はぁ?」「何言ってんの」など、独自の「ネガティブワードリスト」を自動的に検索し、対人関係リスクなどを把握する。

   また、「本性が出やすい」とされるツイッターなどの裏アカ(匿名アカウント)での投稿も特定する。現在、このサービスを利用している企業は大手を含め100社以上。年間およそ1万人の調査を行っている。「90%くらいはネット上の情報でその人の人物像がわかると思っている」とこの会社は説明する。

   早稲田大学の大湾秀雄教授は、企業が採用にAIを利用するようになった理由を「最適な人材を惹きつけることができるかが、企業の存続を脅かす重要課題になってきていることと、働き方改革による採用の効率化」と話す。

リクルートは内定辞退率を違法販売

   AIを倫理を無視して利用したのが就職情報サイト「リクナビ」だ。リクルートキャリアはネットの閲覧履歴などからAIで内定辞退率をはじき出し、それを企業に販売した。価格は1社につき年間400万~500万円。学生の就職支援をうたいながら、学生の不利益になりかねない情報を企業に販売していたことに批判が集中した。

   リクルートキャリアは謝罪し、ビジネスは廃止に追い込まれたが、情報を購入していた企業の倫理も問われている。エントリーシートや性格診断など、慎重な取り扱いを要する情報を提供した企業もあったからだ。

   このビジネスについて、厚生労働省は職業安定法違反と判断している。情報法制研究所の高木浩光理事は「モデルに当てはまらない人が、原因もわからず採用されないという現象が起きます。謎の条件による差別が多数出てきます。これは、いわばマイクロ差別」と批判する。

   中央大学の宮下紘准教授は、「法的には、本来は同意を得なければならない情報を委託して購入していいのかという問題です。倫理的には生き方や能力・資質を点数化していいかという問題です」と話す。

   EUでは、AI分析の対象とされない権利、分析結果に異議申し立てをする権利が認められている。宮下准教授は「日本でも個人情報改正が予定されているので、参考にすべきです。データによって人生が左右される社会ではなく、倫理哲学を持った人間中心の社会を迎えるべき」と話した。

   NHKクローズアップ現代+(2019年10月29日放送「人事・転職ここまで!? AIがあなたを点数化」)