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非正規職員は災害業務NG!?台風15・19号でわかった自治体防災計画の非現実

   自治体の非正規職員が増えている。2005年は45万人だったが、16年には65万人と4割も増えた。茨城・高萩市立松岡中学校は、教員20人中3人が非正規だ。その1人、保健体育の常勤講師・飯田花織さんは、正規の保健体育教員の枠が少なく、まだ採用試験を通れないでいる。しかし、朝7時過ぎから部活動の顧問をし、8時からはクラス担任、午後8時半の帰宅まで正規の教員と同じように働くが、時給は900円だ。

   試験勉強は帰宅後のわずかな時間しかできない。「契約は1年で、次があるかどうか」と話していたが、この取材の後に試験に通って、来春からは晴れて正規教員ということになった。しかし、これは幸運な例だ。

   深夜のパチンコ店のトイレを掃除する中年女性は、れっきとした公務員である。DV専門の相談員で、週30時間ほど面接にあたる。ただし、非常勤だから給与の手取りは11万7023円と少ない。離婚して娘と2人暮らしで、深夜のアルバイトが命綱だ。

   公立小学校の40代の非正規女性教師は、クラス担任を受け持つが、給与は手取りで19万2349円しかない。かつては正規の教員だったが、出産で退職し、夫と死別して、2人の子供を抱えて教員に復帰した。年齢から「正規」の試験は受けられず、「これで老後の資金も貯めて、死ぬまで働かないといけない」という。

   東日本のある児童相談所の非常勤の40代の女性は、大学院で博士号を取得し、臨床心理士の資格も持つ。キャリア10年以上の専門家だが、手取り給与は16万円。それでもやめられないのだという。保護した子どもを親元へ返すかどうかの難しい判定を受け持ち、昨年度(2018年度)の残業は500時間を超えた。児相は人が足らず、通告は増える。「私がやめたら、職場が成り立たなくなる」

規定では正規職員がすべて緊急対処・対応

   非正規職員は、臨時職員、非常勤職員の総称で、半年とか1年の短期間の契約を繰り返す。自治体の窓口業務、教員、保育士、看護師など幅広く、6割が非正規という自治体もある。年収200万円以下も珍しくなく、「官制ワーキングプア」とも呼ばれている。

   先の台風19号の直撃で、茨城県鹿嶋市は非正規職員の役割を見直さざるを得なくなった。市は災害対策本部を設置したが、防災計画では、非正規職員は災害対応に当れないことになっていたのだ。避難所の運営、廃棄物の撤去、被害調査・・・と、緊急業務は山のようにあり、正規も非正規もないが、こんなことも起きた。福祉対策で高齢者に接していたのは非正規の職員だったが、災害避難誘導では面識のない正規職員が対応することになった。

   避難所には130人が来たが、職員は2人だった。鹿島市は浸水はなかったが、1万戸が停電。市役所は問い合わせ電話でてんてこまいだったが、非正規職員を呼べなかった。深夜勤務はできないことになっていたからだ。こうしたことは、鹿嶋市だけのことではなかった。防災計画はどこの自治体も同じだ。

   武田真一キャスター「非正規職員が、いかに大事な、命と暮らしに直結する仕事に就いているかがわかりましたね」

   石井光太さん(作家)「行政サービスは、非正規職員の犠牲の上に成り立っているんです」

   立教大の西山志保教授は「少子高齢化と税収減の中で、非正規職員が調整弁として使われてきましたが、今までのサービスは不可能な段階にきました。行政と市民(NPO)との協働を考えるべき時です」と解説する。

   NHK横浜の寺島光海記者は「非正規職員がいないと行政サービスが立ち行かないことを、一人一人が実感することが大切だと思います」と話した。

NHKクローズアップ現代+(2019年11月6日放送「揺れる"非正規公務員" ~急増する背景に何が?~」)