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世界に広がる日本酒造り―地元で栽培した酒米と水と酵母使って杜氏も現地の人!フランスやアメリカに次々酒蔵

    フランスで江戸時代から続く酒蔵の15代目代表、久野九平治さんが日本酒造りに挑戦している。日本の酒米に似た品種を直播き栽培し、精米から醸造にこぎつけた。「原料からアプローチしないと受け入れてくれない」と久野さんは言う。試行錯誤して完成した酒を五つ星ホテル「リッツ・パリ」のソムリエに試飲してもらい、「日本の米で造ったのとは違う香りで、ミネラル感と後味に土壌の塩気がヨーロッパの人には飲みやすい」と合格点を得た。

   いま、世界各地で現地の米を使った酒造りが広がっている。原料から醸造までを同じ土地で行う「Terroir(テロワール)」で、土地の風味を大切にした「酒革命」「日本酒を世界酒に」の動きだ。

   ニューヨークでは、日本酒に魅せられた元科学者の杜氏と元金融マンの経営者が、自前の設備を用意した。杜氏のブランドン・ドーンさんは「日本で初めて飲んだ日本酒はびっくりするほどおいしかった。アメリカでも造りたい」と話す。岩手県の老舗酒蔵の5代目、久慈浩介さんのアドバイスも得て、アメリカ産の米や水や酵母から日本酒造りをめざす。

   その久慈さんは46の国と地域に日本酒を輸出し、さらに世界各地で新しい酒を造りだそうと活動中だ。「現地の人に技を惜しまず伝授したい」という。

逆輸入で国内の酒造りも進化

   日本酒の国内消費は、ピーク時(1975年ごろ)の3分の1といわれる。その一方で世界には日本酒の醸造所が続々と生まれている。フランスとカナダで3か所、イギリスとスペイン2か所、アメリカでは15か所もある。台湾やニュージーランド、イタリア、チリ、メキシコにもできた。つまり、欧米やアジア、南米の地酒だ。

   日本ソムリエ協会会長の田崎真也さんは「すばらしい。世界中にできれば、日本酒のおもしろさが理解され、日本国内の酒造りも進化し、消費者にとってもおもしろさが広がります」と語る。

   うまみ成分のグルタミン酸はビール5、ワイン3とすれば、日本酒には33もふくまれる。田崎さんによると、ワインは古くから卵料理に合わず、生野菜にもむかないとされてきたが、「日本酒はすべての甘味をひきたてる。万能です」という。その強みが世界に広がりつつある。

ドンペリの元醸造責任者は富山で「ブレンド日本酒」開発

   高級シャンパン「ドンペリ」の最高醸造責任者を30年務めたリシャール・ジュフノワさんは、「日本酒の力強い香りが気に入った」と富山県立山町を拠点に新しい酒造りに取り組んでいる。「アッサンブラージュ」(ブレンドの意味)というドンペリの技を用い、コメの品種や酵母の種類にもこだわる。県内の老舗酒蔵に注文した日本酒が今年でき、そこから15種を選んでブレンドしていくという。

   親交のある田崎さんは「これまでの日本酒の世界にあまりなかった手法で、1滴ずつたらしながら、楽器の演奏を組み合わせて一つの音楽をつくるオーケストラのイメージです」と評した。

   武田真一キャスター「これから日本酒はどう変わるのでしょうか」

   田崎さんは「海外でできた日本酒が日本に戻ってくれば、食文化が逆輸入された形で変わる可能性があります」と指摘する。パリ郊外の酒蔵で杜氏を務める今井翔也さんは、「フランスの考え方も思想も技術も、日本酒の文化に取り込みながら新しい伝統をつくっていく」という。世界各地の米、水から酵母にまでこだわる潮流が定着するかもしれない。

   *NHKクローズアップ現代+(2019年11月14日放送「日本酒が「世界酒」に!~SAKE革命~」)