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〈シライサン〉
霊が「そこにいる」という日常にある恐怖。王道にして骨太なジャパニーズホラーの傑作だ

   人気作家・乙一が、本名の安達寛高名義で撮った長編初監督作。眼球が破裂した死体が次々に発見されるという残虐な事件が起こる。死因はいずれも心臓麻痺で、死の直前に何かに怯え、とり憑かれた様子だったという奇妙な共通点があった。

   女子大生の瑞紀(飯豊まりえ)は、親友をこの事件によって亡くし、精神的なショックを受けていた。同様の事件によって弟を亡くした大学生の鈴木春男(稲葉友)と出会い、事件の真相を究明し、やがて事件の鍵を握る詠子という女性を探し出す。しかし、詠子も眼球が破裂し、心臓麻痺を起こして死んでしまう。彼女は死の直前に「シライサン」という言葉を残していた。瑞紀と春男は「シライサン」の呪いに巻き込まれていく...。

  • シライサン((C)2020松竹株式会社)
    シライサン((C)2020松竹株式会社)
  • シライサン((C)2020松竹株式会社)

眼球が破裂し、心臓麻痺を起こした死体が次々と...

   ストーリー展開を決めたうえで、それにあったキャラクター設定を作る方法をとる乙一の物語を構築する技術に疑いはない。注目は乙一ではなく、安達寛高の「演出」になるが、ホラー映画を――とりわけジャパニーズホラーを知り尽くした恐怖の煽り方には唸る。例えば『13日の金曜日』や『スクリーム』などのハリウッドホラーは「正体不明の何者かが追いかけてくる」というのが型だが、『リング』や『呪怨』などのジャパニーズホラーは、霊が「そこにいる」という日常にありながら、そこに怖さが潜み、不特定対数の人間に迫ってくるという恐怖だ。その構造を安達監督は知り尽くしており、巧みに活用している。

   瑞紀と春男が対面して会話をするシーンなどで、従来の映画文法では不自然なカットバックが存在する。画角だけを切り取れば、不自然且つ稚拙になるが、本作は「シライサン」という謎が、物語に常に存在しており、不自然なことがむしろ自然であり、自然であることが不自然に映る。この効果はホラー映画において、「リアルでないことがリアリティを生む」というフィクション世界における幸福な形式を生み出しているといえるだろう。

   フィクションだろうがノンフィクションだろうが、そこに描かれている事象、そこに映っている世界にリアリティを感じるからこそ、観客は製作者が意図する情動を引き起こすことができる――この構造こそジャパニーズホラーの神髄だろう。「シライサン」の正体も、ある日本的なモノが起源となっている。王道にして骨太なジャパニーズホラーを作り上げた安達監督に拍手を送りたい。

   欲を言えば『リング』におけるビデオテープや、『回路』におけるインターネットなど、ホラー映画における「アイテム」が物語の中で希薄だったので、そこにもう一捻り加われば、より完成度の高い作品となっていたかもしれない。

丸輪 太郎

おススメ度☆☆☆