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いまや世界で一番おいしい日本のチョコレート!抹茶、干し柿、日本酒・・・これまでなかった味にパリの祭典でも高い評価

   4月14日はバレンタインデーということで、チョコレート特集となった。ゆず、日本酒、干し柿やタケノコ・・・と、日本の味を生かしたチョコレートが世界で高い評価を受けている。パリに一流職人が集まって開くチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」で選ばれる代表的ショコラティエは、フランス人についで日本人が多い。ほとんどが中小メーカーか無名の店の職人たちで、あっと驚く素材で繊細な味わいを作り出す。

   「サロンドロワイヤル」は大阪の下町、東住吉区にある社員70人のメーカーだ。前内真智子社長は2012年に夫の前社長から仕事を引き継いですぐに大きな壁にぶちあたった。販売実績は悪くないのに、社員が辞めていく。原因は「仕事に誇りを持てないためだ」と前内社長は考えた。「小さい会社は100点満点にはなれません。でも、その中で喜びや楽しみを見いだしていくことはできるはずです」と考え、そこから出発した。

   まず手掛けたのは、70%を占める女性社員のモチベーションアップだ。辞めていった男性の仕事を女性に任せた。家事と両立できるように仕事量を減らした。600種類あった製品を200種類に絞り込んだ。残業をバレンタインデー間近の時期でもゼロにした。これが効率化につながり、業績は上がっていった。

   そして、大きな旗印として掲げたのが、世界に通用する高級チョコの開発だった。新しい職人を採用し、自由な発想で試行錯誤させた。できた手作りの高級品を、8000万円を投資して京都に開いた新店舗に並べた。

   京都店オープンから5年たった2017年の「サロン・デュ・ショコラ」に初参加して金賞受賞。「良いものを作って、お客様が認め、社員が作ることを喜びとする。それを追求してきました」と前内さんは語った。「中小企業は安売りしたら負け。めざすべきはデパ地下のまん中に置かれる製品で、そのためには世界で高評価を得る必要がある」というのが信条だ。

「そうか、日本人がおいしいと思うものを出せばいいんだ」

   大のチョコレート好きという宮田裕章・慶応大学教授は「これまでの高級品は、鮮やかな果実や華やかな香りの世界だったのが、和の素材が持つやさしさや繊細な美しさといった違う体験が生まれ始めています」と評する。

   経済学者の山口義行さんは「日本の中小企業に技術力があることは、世界が知っていますが、『隠れたチャンピオン』といわれ、なかなか見えてこなかったんです。大企業の下請けではなく、消費者向けの商品を開発して誇りややりがいにつなげることを、中小企業が求め始めているんです」と解説した。

   海外でとく親しまれている抹茶のガナッシュ(生チョコ)を世界に送り出したメリーチョコレートの大石茂さんは、「海外に初出展した2000年ごろは、食べてペッと吐き出された」と振り返った。試行錯誤6年。「本場の味に近づけよう」と用いていた洋酒に代わって、日本酒を使ったことが転機となった。「日本人がおいしいと思うものを出せばいいんだ」と、大石さんは信じている。宮田教授は「日本が積み上げてきた文化と感性が多様な豊かさを実現させた」という。

インドネシアのカカオ農家を応援して豆から厳選

   サロン・デュ・ショコラに4年連続で入賞しているベンチャー企業「ダリケー」は、カカオ豆を入れるとチョコレートのもとになる液体を抽出するマシーンを出展した。吉野慶一社長は外資系投資銀行やヘッジファンドで仕事をしてきたチョコレート界では異色の人物である。インドネシアを訪れたときに、カカオ豆が商社などに買いたたかれるのを見て、「生産地で農家と協業していい豆を作りたい」と、金融機関やデパートを説いて回った。

   カカオドリンクの抽出マシーンは、シャープで生産中止になっていた茶葉を粉末にする機器をもとに技術陣とともに作った。これまでなら72時間かかった液状化を1分でやってしまう。「これでより多くの利益が豆の生産者に入るようになればと考えました」という。

   チョコレートジャーナリストの市川歩美さんは、代金の一部をカカオ農家の支援に回すことから、「キーワードはサポチョコ(サポートするチョコレートの略)」という。山口さんは「応援したい気持ち、応援欲を上手に刺激することが戦略になる」と言い、宮田教授は「単にお金を稼ぐのではなく、よりよい世界に貢献する。その手段としてビジネスがある。どんなものを食べるか、どんなものを選ぶかが世界を変える」と評価している。義理チョコ、本命チョコなどと騒ぐな。チョコレートの世界は深い。

NHKクローズアップ現代+(2020年2月13日放送「世界が恋する日本チョコレート 小さな会社 躍進のヒミツ」)