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『相模原・障害者殺傷』裁判で問われた「この国はみんなが大切にされる世界になっているか」

   神奈川県相模原市の障害者施設で入所者19人を刺殺し、入所者・職員計26人に重軽傷を負わせた植松聖被告の裁判に、全国からのべ8000人以上が傍聴しようと並んだ。

   重い障害のある息子、荘真さん(6歳)を持つ土屋義生さん(40)は、「障がいのある子と行くことに意味がある」と考えた。1月8日(2020年)の初公判に、車いすに人工呼吸器をつけた荘真さんと雨の中、横浜地裁を訪れたが、26の傍聴席の抽選にはずれ、この日は傍聴できなかった。

   9日後の公判は傍聴でき、植松の表情を「笑っている」「目があったと感じた」とメモに書き留めた。「荘真を見られた気がして恐怖を感じた」という。とっさに、法廷内にモーターが響く人工呼吸器の電源を土屋さんは切った。「うちの子も完全に殺すと(植松が)まだ思っているかもって思ったんですね。そういう人がいる社会というのを間接的にではなく直接的に感じました」と土屋さんは語った。

   土屋さんはブログに「植松被告は障がい者なんていなくなればいいと言っているようです。一部の人が言うことと流せませんでした」と書いた。公判傍聴を記録したノートには、「なんのために行く? 考えたいから。この日本で障がい児とともに生きるということはどういうことか」「なんのために2人で行く? 当事者の家族として生きていく覚悟」と書いた。

傍聴し続けた大学生「いらない人なんて一人もいない」

   この春から障害者施設で働く大学生、齋藤拓崇さんも傍聴した。県職員試験に合格できず、福祉の現場で働くことにしたが、「ちゃんとやっていけるのかという不安を、少しでも解消するきっかけに」と裁判所に足を運び続けた。そこで読まれた遺族調書にあった、障がい児を育てた親の「手がかかることがいっぱい。でも、寝顔を見ると不安より前向きな気持ちで、これまで本当に幸せでした」言葉に心を揺さぶられた。

   事件の犠牲者である19歳の娘、美帆さんを、匿名でなく実名でと求めた母の「美帆に希望をもらった」の言葉を、齋藤さんはメモし「社会に残す強い意志を感じました」という。就活に挫折したことから、「お前たちはいらないといわれた感じだったが、この人は役に立つとか立たないとか、そういう考え方はよくない」「傍聴を通じて(福祉の現場と)しっかりと正面から向き合おうとの気持ちを感じています」と思い始めたそうだ。

重度障害の娘の父・最首悟さん「人間の大事な姿わかってほしい」

   土屋さんが2月5日に傍聴した公判では、犠牲者遺族が植松に語りかけた。「あなたの大切な人はだれですか」「意思疎通と努力したのはどういうときですか」と問われ、植松は「大切な人はいい人です」と言い、「どういうとき、どういうとき」と繰り返しつぶやくばかりだった。

   土屋さんは人工呼吸器の電源を切らずに傍聴した。「目があっても怖い、(存在を)否定されるという感情はわきませんでした」「日本の社会と向き合いたいと思って来たが、結果的には自分と向き合っていたのです」と語る。ノートには「社会に向けて、(障がい者は)迷惑していない。幸せに生きていると主張したい。あるがままに生きていける社会になって欲しい」と書いた。

   重度障害者の娘がいる社会学者の最首悟さんは「(障がい者を)せめてつぶさないで。小さい、ささやかな世界として人間の大事な姿をわかっていただければ」と話した。福祉現場を20年以上取材するノンフィクションライターの渡辺一史さんは、「植松被告は特別の家庭環境からああいう人格が生まれたわけではなく、ごく普通の環境からああいう事件を起こす人間が現れうることを(裁判を通じて)知った」という。

   検察は植松被告に死刑を求刑し、弁護側は心神喪失からの無罪を主張している。判決は3月17日の予定だ。

   ※NHKクローズアップ現代+(2020年2月20日放送「わたしたちの"答え"を探して~障害者殺傷事件裁判 傍聴者たちの43日~」)