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知りたい読みたい情報が載っている・・・読者の要望・疑問から取材スタートする地方新聞「崖っぷちの生き残り作戦」

   街中や電車内で新聞を読む人を見かけなくなった。全国の新聞の発行部数はこの10年で1200万部も減少した。休刊や廃刊も相次いでいる。九州地方をカバーする西日本新聞の発行部数は58万部と、10年ほど前の3分の2、販売エリアも縮小した。

   そこで、2年前から新たな取り組みを始めた。記者と読者がともに作る新しい報道「あなたの特命取材班」である。通称「あな特」だ。これまでは、記者が問題を見つけ、取材して報じてきた。「あな特」は読者から寄せられた疑問や悩みから取材がスタートする。取材の経緯を報告し、わかった事実を行政や企業にもぶつけ、解決策を考える。

   これまでに、高速バスに障害者優先席が設置されたり、携帯電話の決済を不正利用した詐欺の補償制度などが実現した。現在、「あな特」には1万4000人の読者が登録している。あなたの特命取材班の坂本信博記者は、「こんな企画を待っていたと読者に言われました。地方紙だからできる仕事がたくさんあるんです」と話す。

求められているのは「記者が知らせたいニュース」じゃないんだ!

   地方新聞同士の連携も始まった。20社が加わったネットワークが生まれている。西日本新聞から岩手日報に届いたのは、子連れで議会を傍聴した時に、退席を求められた読者の体験をもとにした記事だ。岩手日報はテレビ会議で西日本新聞の記者に経緯を聞き、岩手の現状を取材して記事にした。

   西日本新聞の坂本記者は、「書いた記事が読者に刺さっているのか感じにくいなかで、連携して深い調査報道ができれば、日本中でより良い報道ができると思っています」と語った。

   武田真一キャスターが「坂本さんの『記事が読者に刺さらない』という言葉にはすごく共感するところがあります」と言うと、坂本記者は「これまで、記者が知らせたいというニュースに軸を置いてきて、読者が知りたいことに応えられてなかったんではないかと感じられるようになりました」と話した。

   市民の立場でネットメディアを運営する社会福祉士の大井美夏子さんは、「地域に関する知りたい情報が本当に少ないです。知りたいものをもっと出して、深めてもらったら、買いたい、応援したいという気持ちになるのでは」と指摘した。

地域・住民に貢献するジャーナリズム

   「BuzzFeed Japan」元編集長の古田大輔氏は、「ジャーナリズム・アズ・ア・サービス」という言葉を紹介して、こう話した。「日本語訳しづらいですが、貢献するジャーナリズムというような意味があります。地域の課題に地域の一員として向き合って、どうポジティブなものにかえていくかを、地域の人と一緒に考えて報じるという考え方が広がっています。メディアが信頼性を失ってきたなかで、やはり地域への貢献が大切だという考え方です」

   NHKでも新たな試みを始めている。帯広放送局がおととし12月(2018年)に始めた地域の悩みに向き合う「ナットク!とかちCH」だ。視聴者から寄せられる意見や情報をもとに記者が取材し、放送やホームページで結果を報告する。モヤモヤした思いを記者が聞くワークショップ「もやカフェ」も開いた。

   大井さんは「メディアの記者の人も1人の家庭人であったり、地域社会の人であったりするのに、メディアと市民を区分けしすぎていたのではないでしょうか。市民であるという意識で取材をすれば、"同じじゃん"となると思います」という。坂本記者は「新聞記者はお金を稼ぐのではなくて、信頼を稼いでファンを増やすのが、これからの仕事だと思っています」と語った。

クローズアップ現代+(2020年2月26日放送「あなたのニュースで社会が変わる~信頼のジャーナリズム~」)