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緊急事態宣言解除でも戻ってこない観光客!インバウンド90%減、旅館・ホテル倒産続出

   全国に観光ホテルや旅館を展開する星野リゾートの代表、星野佳路さんは、コロナ禍の緊急事態を「何十年に一度、いや100年に一度かもしれない」という。売り上げは去年(2019年)の5分の1。その中で、いま何をするべきかの観光業復活策を練っている。

   日本を訪れた外国人観光客は2009年の679万人から10年で4倍を超して、去年は3188万人に達し、さらに10年後には6000万人をめざしていた。しかし、新型コロナウイルスに直撃され、今年3月は19万人と去年の90%減というありさまだった。そこに緊急事態宣言の外出自粛で国内の旅行客も減り、全国で30を超すホテル、旅館が倒産した。

   星野さんは4月下旬、幹部を集めた戦略会議で「外出自粛が終わっても、客が一気に戻ることはない。外国人観光客のインバウンドは1年から1年半は戻らない」という予測を示した。まず戻るのは近隣への外出で、「30分から1時間の近場から始まる。次に首都圏や関西圏からの客、外国人観光客の回復は最後になる」という分析だ。年間宿泊客の30%は外国人だった星野リゾートにとっては、戦略の見直しが必要だが、より強い施設と組織作りをいまこそ進めたいという。

   打ちだしたのは、近場の旅行客を取り込むためのネットワークづくり。観光業界は、宿泊施設を中心に、農家や漁師、バスやタクシーの運輸関係者といった多くの地域住民がかかわる。そこから観光資源を見つけようと、ホテルの従業員は地元の農家で食材に触れる活動を始めた。人手不足の農家を手伝いながら、「地元の新鮮な野菜をホテルのカフェで出せないか」などと考えをめぐらす。

   「地元の魅力についてよく知ることが大きな力になる」「コロナウイルスの治療薬やワクチンができるまでは観光需要は低いだろうが、その中で努力すれることで生き延びる」と星野さんは強調する。

大阪も「復活は国内旅行から」

   外国人観光客が2014年から5年間で3倍に伸びて、「インバウンド戦略の優等生」といわれた大阪も、今年3月以降は前年の10%以下に激減した。観光庁の元長官で、大阪観光局の溝畑宏局長はプロ野球やJリーグ、テーマパークの営業再開が観光業復活のきっかけになるという。その後を回復期として「国内観光客」「東アジアからの客」「欧米からの客」の3段階で順を追って戻ってくると予想し、今を「それまでの準備期」と位置づける。

   溝畑局長は「観光業はすそ野の広い産業で、多くは零細業者。企業の体力を維持できるかがカギです」といい、国内観光客が戻り始める段階で反転攻勢を仕掛けるつもりだ。たとえば、奈良県と接する大阪府柏原市には、豊かな自然の中を走る16キロのサイクリングロードや明治時代をしのばせる古い街並み、100年以上の歴史を持つワイナリーがある。「知る人ぞ知る魅力の開発」を溝畑さんは戦術の一つにあげる。

   パワフルな大阪人をアピールする「We are OSAKA」キャンペーン。これは東日本大震災で全国に自粛ムードが広がる中で展開した「がんばろう日本!」をモデルにした。地域の顔となる人物を前面に押し出す動画も制作して、SNSで発信する。

   JRのエキナカブームの仕掛け人だった鎌田由美子さんは、「ここ半年間は止血の時期で、感染の第2波がきたときに備えて、半分の売り上げでも維持できる効率化が必要」「緊急事態宣言が解除された地方にとっては、テレワークや副業が広がることはチャンスにつながる」「観光業復活が(全体の)経済再生をもたらす」と話し、そのポイントとして客と一緒に楽しむ「日常観光」、そのための地方の魅力開発をあげている。

NHKクローズアップ現代+(2020年5月14日放送「観光復活へ られざるシナリオ~トップたちの一手~」