J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

木村花さんを追い詰めたSNSの卑怯者!「傷つこうと関係ない」―自殺したら慌てて消去

   プロレスラー木村花さんのツイッターに書き込んでいた20代男性は、病気で大学を辞め、リアリティー番組「テラスハウス」を以前から観ていたという。「足元でギャーギャー騒いでいるぐらいの気分だったが、当人からしたらそんなことはなかったんだな」と話す。番組の中で花さんが他の出演者に「人生をなめている」と問い詰めるシーンに「うるせえ」と投稿したという。

   相手の出演者に感情移入して、花さんに反感を持ったそうだ。「バカにされた感覚で、正義感ですよ」「誰かと話したい気持ちで、好きとか嫌いとかを見せると、共通の話題ができる」と振り返った。

   番組の映像がユーチューブにアップされると、投稿はさらに増えた。「見てイライラする」と書き込んだ男性は、「むこうが傷つく傷つかないに関係なく、とりあえず自分の思いを言いたかっただけ。(花さんが)叩かれているとは知らなかった」そうだ。

   国際大学の山口真一准教授は「問題は、一部の意見があたかも多くの意見に見えたことだ」と指摘する。「炎上」なんいうとあたかも多数が書き込んでいるように聞こえるが上の投稿中10回以上は1・3%しかなかったが、それが全投稿の14・7%を占めた。「ネガティブなことを考えている人ほど多くのコメントを能動的に発信する。ゆがんだ意見分布により世界が敵に見えてしまう」面がある。

誹謗中傷投稿も番組は織り込み済み

   こうした誹謗ツイートの60%が、花さん自殺の直後から、他人から読めない状態にされた。ネット問題に対応するNPO代表の大空幸星さんは「軽い気持ちの言葉が人を傷つけるという認識が広がった」と話すが、「僕の投稿が別の掲示板に掲載されたら面倒なので消した」と語る男性もいる。投稿の責任を問われそうになって逃げているのだ。

   フジテレビは「出演者をどう扱うか、認識が十分ではなかった」との社長コメントを出したが、山口准教授は「批判的感情をあおることによって視聴率を稼ぐビジネスモデル」と批判する。そうなのだ。番組は決して「リアル」ではなく、「リアティー」という現実っぽいやらせで、中傷投稿も番組の一部として組み込まれていたのだ。

   2年以上も「淫売」「強姦」といった誹謗中傷を受け、家族まで巻き込まれたというサイエンスライターの片瀬久美子さんは、ツイッター社に削除を求めたが、「攻撃的行為を禁止するルール違反にあたらない」と拒否された。片瀬さんは裁判所に訴え、ツイッター社にIPアドレスの開示を請求、携帯会社やプロバイダーにも裁判を起こし、1年かけて発信者を特定して訴えることができた。

   発信者は埼玉県に住む60代男性で、数百のアカウントを持ち、誹謗中傷を繰り返していた。一度も裁判所に出廷しなかったが、260万円の賠償支払いと謝罪の判決が下った。それから1年、今も謝罪も支払いもない。検察の調べに、男性は「遊びだった」と語ったという。嫌疑不十分で不起訴処分だった。検察までが面倒を避けたのか、検察審査会で審議して当然の事案だ。

   賠償不払いには強制執行の申し立てができ、神田知宏弁護士は「誹謗中傷を削除できる法や仕組みと、もう少し迅速に対処することが必要です」と指摘する。

   ※NHKクローズアップ現代+(2020年6月4日放送「ネットのひぼう中傷 なくすために~女子プロレスラーの死~」)