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故人の偲び方が変わってきた...SNSでメール送り続けたり、バーチャルリアリティで"再会"

   亡くなった家族や友人のSNSのアカウントに、死後もメッセージを送る人が増えている。母親に宛てて「孫ができたよ」とか、亡き友に「お誕生日おめでとう。41歳だね」とか。デジタル技術の進歩で、音声会話や仮想現実での再会まである。

  • 送り続けられるSNS(NHKの番組ホームページより)
    送り続けられるSNS(NHKの番組ホームページより)
  • 送り続けられるSNS(NHKの番組ホームページより)

返信なくかえってわびしい...「やっぱり、あなたはもういないんだ」

   広島の浜田節子さん(57)は、2年前に癌で亡くなった妹の令子さんに書き続けている。5年の闘病生活の末に亡くなったが、葬儀では、「私より先に、ずるい」としか言えなかった。積もる思いをSNSに書く。「よくがんばったね」「お疲れさま」が言いたかった。「天国で見てますか?カープバカ勝ち」などと80件。「どこかで読んでると思います」

   なぜ書くのか。NHKがネットで聞いたら、約100人から答えがあった。「もやもやが晴れる。天国の母のために頑張ろうと思う」「仏壇で手を合わせるよりも、文字の方が届く気がした」「気持ちの整理になった」などなどだ。フェイスブックはすでに死後もアカウントを残すサービスを始めており、ツイッターにも「残して」という声が寄せられているという。

   残された人の心のケアを「グリーフケア」というのだそうだ。東京大名誉教授で上智大学グリーフケア研究所所長の島薗進さんは、「命日とか儀式はみんなでしますが、死者への思いは1人の心の中でのこと。SNS空間で絆が続く方が人類には普遍的なことかもしれません。新しい探究の時代になったんでしょう」と話す。

   武田真一キャスターは「6年前に父を亡くして、LINEに書いてみたこともありますが、既読にならず、返事もなくて、かえって寂しかったです」。NHKのアンケートでも、書き込んだ後で「いないんだというのを再認識した」「返事がなくて悲しかった」といった声があった。

   WEBメディア編集長の合田文さんは、「死を分かち合うことは、LINEでもできます。祖父が亡くなったとき、コロナで集まれなかったのですが、親族で相談はできました。しかし、SNSで1対1となるとどうか」という。

韓国のテレビ局は死んだ娘の3DCG作って母親と会話番組

   アメリカでは、亡くなった人と会話ができるアプリが開発された。AI(人工知能)に故人の職業や趣味など100を超えるデータを入力して、クローンを作るのだ。音声もあるし、歌まで歌える。開発者のジェームス・ブラホスさんは「素晴らしい感覚です。すぐそばでいつでも会える」と推す。現在500人近くが、亡くなった家族と日常的に会話をいるという。

   韓国ではさらに驚きの試みがあった。テレビ番組が仮想現実(VR)を使って、7歳で癌で急死した子供と母親を再会させたのだ。テレビ局は、亡くなった子どもの写真、動画、声を元に、半年をかけて同世代の子供の動作を160台のカメラで撮影し、3DのCGを作ってVRにまとめ上げた。

   放送では、母親はゴーグルをかけて子どもと再会する。「ママ、どこにいるの?」「会いたかった」「ママ泣かないで」「泣かないよ。あなたをいっぱい愛するから」。テレビ画面では、ゴーグル姿の母親とCGの子供は公園のような場所にいるように見えた。母親は「悲しみがなくなりはしないが、気持ちが楽になった」と語った。しかし、ネットでは「親子の愛に感動した」という声の一方で、「残酷だ」「心の傷を広げる」「死者への冒涜」など議論になった。

   合田さんは「もっと簡単にできるようになったら、おじいちゃん、おばあちゃんと一緒にお盆を過ごすこともできます。死の捉え方が違ってきて、もうひとつ命が湧いてくるような感覚もありうる。ただ、本当にその人の意思なのかなというのが残るでしょうね」という。

   島薗さんは「フロイトの『喪の仕事』というのがあります。人を失ったことを納得する長い仕事、プロセスをいいます。(VRは)これを飛び越えちゃってる。悲しみのおかげで、何が大切かをわかることもある」と話す。

   会話アプリやVRにはつくりものの臭いがする。心の問題までAIに預けるのか...

   ※NHKクローズアップ現代+(2020年7月22日放送「既読のつかないSNS ~テクノロジーでよみがえる"命"~」)