2020年 12月 3日 (木)

<劇場>
原作・又吉が敬愛する太宰の作風「生への不安」が場面に充満、山崎賢人と松岡茉優の巧みで滑稽な芝居が愛おしい

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   劇団「おろか」で脚本を担当する永田(山崎賢人)は、ある日、女優になる夢を抱き上京し服飾の学校に通っている沙希(松岡茉優)に、路上で声をかける。二人は互いに惹かれていき、付き合うことになる。創作活動が生活の中心になっていき生活費が無くなっていく永田は、沙希の下宿先に転がりこむことになる。 「火花」で芥川賞を受賞した又吉直樹の2作目となる同名小説を『GO』『世界の中心で、愛をさけぶ』の行定勲がメガホンを取った。

  • ©2020「劇場」製作委員会
    ©2020「劇場」製作委員会
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恋愛物語というより、「東京という劇場」のどこにでもある日常描く

   永田と沙希が、他愛もないことを2人にしか通じないような言葉で、互いに笑い合っている光景は、まるで世界は2人のためだけに周っているようだ。しかし、時計の針は軋み続けている。それは、2人も自覚している。その自覚がぼやけてしまうほど、2人にとって「今」は、とにかく楽しい。「終幕」を自覚しながらも、沙希はバイトを掛け持ちするなど、現実的に永田との将来を信じ、行動していく。永田は創作活動に打ち込むが、周りから見たら自己評価の高いヒモ野郎でしかない。自尊心の高い永田は、創作活動において、沙希の見返りを求めない優しさや、屈託のなさが疎ましく思えてくる。

   生きているからこそ、激しく生きたいからこそ、形成される「生への不安」がいかなる場面にも空気として充満している。この空気こそ、原作のテーマであり、原作者の又吉が敬愛する太宰治の初期作品の作風の根幹を成すものといえるだろう。

   本作は恋愛物語というよりも「東京という劇場」のどこにでもある日常を描いている。永田は東京で、自分の才能が認められることを疑っていない。沙希は、永田の理想の女性であろうと東京で生きている。しかし、互いが「劇場」の中で、理想を追い、理想に縛られ、結果として、理想に苦しめられていく。永田は健気な沙希の存在により、自分の才能の無さを認めざるを得ない状況に追いやれられていく。2人には、この劇場で狡猾な芝居を演じられるほどの経験も技術もない。余りに純粋なのだ。

   終盤、2人は構成を無視したように、思いついた「正直」な言葉で会話を重ねていく。それは、同時に、東京で2人が体験した出来事を元にした練りに練られた「台詞」でもある。2人の最後の会話と劇場の終幕が重なった時に「2人の作品」は完成を遂げる。

   メタ構造を持つ難しいやり取りだが、作品のテーマを助長する山崎賢人と松岡茉優の、巧みでいて、どこか滑稽な芝居がひたすら愛おしかった。

丸輪 太郎

   おススメ度 ☆☆☆

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