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<竜の道 二つの顔の復讐者>(フジテレビ系)
冷酷な竜一と竜二の心を、美佐の無垢な愛情が揺さぶり、歯車は狂い始める。復讐の憎悪と無垢な愛情...永遠の相克描く

   ドラマは原作小説を超えることができるか?――永遠の相克とも言うべきテーマだが、このドラマは、登場人物が多く展開も複雑な白川道の原作を噛み砕き、双子の兄弟による『復讐劇』と、兄弟と血のつながらない妹との『兄妹愛』に絞り込んだことで、小説の世界観をより分かりやすく提示することに成功している。

   その上で、『復讐劇』は目的のためなら手段を選ばないダーティーなハードボイルドとして、『兄妹愛』は疑似近親者への抗しがたい禁断の愛として描かれる。

   幼くして両親に捨てられた双子の兄弟・矢端竜一と竜二。2人を我が子同然に育ててくれた養父母が、営んでいた運送会社をキリシマ急便社長・霧島源平(遠藤憲一)に乗っ取られ、ガス心中した。15歳だった兄弟は、霧島への復讐を誓う。

  • 第4話の1シーン(番組ホームページより)
    第4話の1シーン(番組ホームページより)
  • 第4話の1シーン(番組ホームページより)

IT社長の兄、国交省官僚の弟、表と裏で画策

   それから23年がたち、広島の小さな運送会社だったキリシマ急便は、あくどい乗っ取りに次ぐ乗っ取りを重ね、業界有数の大企業にのし上がっていた。

   兄・竜一(玉木宏)は巨大ヤクザ組織の首領・曽根村始(西郷輝彦)の力を借りて顔も戸籍も変え、ITコンサルティング会社「UDコーポレーション」社長・和田猛として、弟・竜二(高橋一生)はキリシマ急便を監督する国土交通省のエリート官僚として、言わば裏と表の両面から「すべてを奪ってやる」と、復讐劇をスタートさせる。

   一方、周到に準備された復讐計画に影を落とすのが、養父母の実の娘・吉江美佐(松本穂香)の存在だ。両親が死んだとき5歳だった美佐は、両親の死は事故と聞かされていた。ともに親戚の家に預けられ、苦労して育った双子の兄弟を実の兄のように慕い、信頼している。辛い子供時代を過ごしたにもかかわらず、小学校教諭となった今は「どんな人生でも、自分がどう生きるかが大切だと思っています」と強い意志を持ち、真っ直ぐに生きている。

   復讐成就のためには殺人や暴行、脅迫、霧島の娘との偽装結婚も辞さない冷酷な竜一と竜二の心を、美佐の無垢な愛情が揺さぶる。そこから不都合な偶然や嫉妬、裏切りが次々と兄弟に襲いかかり、復讐の歯車が狂い始める。

   復讐の憎悪と無垢な愛情――これもまた、永遠の相克だ。

   竜一の後ろ盾となっているヤクザの首領を演じる西郷輝彦が、凄みのある枯れた演技を見せ、ドラマ全体を引き締めている。

   白川が2015年4月に大動脈瘤破裂で死去したため、小説は未完となった。このドラマでは、『兄妹』のお互いへの思いが危うい一線を越え、新たな悲劇の幕開けを予感させる。果たしてそこには、いかなるカタルシスが訪れるのか。白川ファンならずとも最後まで目が離せない。

   最近のテレビドラマでは珍しく、残虐な殺人や暴力シーンがリアルに描かれているのが、低視聴率の所以か。

   SEKAI NO OWARIが歌う主題歌「unbrella」は、兄弟が妹を思う気持ちの見事な隠喩となっており、切なく美しい。(火曜よる9時~)

寒山