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女性の生理や更年期など特有の問題を解決する最新テクノロジー「フェムテック」が急速に進んでいる。生理用品や自動搾乳装置、月経リズムの計測グッズなどなど...性差による働き方の改革につながると企業も注目し始めた

   今、女性の間で話題の生理用ショーツは、生地自体が経血を吸収するので、ナプキンが不要。活発に動いても漏れにくいと評判だ。産後や更年期の女性に起きやすい尿漏れを防ぐグッズや、更年期のほてりを冷却するグッズ、自動搾乳装置もある。これらのように、これまでなかなか口に出せなかった女性特有の悩みを解決する最新技術「フェムテック」が次々と登場し、女性の生活が変わり始めている。

   データによると、生理痛などによる労働損失は推計で年間4911億円。更年期障害で仕事を辞める女性は17%いるというデータもあり、企業は変革を迫られている。

  • NHKクローズアップ現代+番組公式サイトより
    NHKクローズアップ現代+番組公式サイトより
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働き方に影響する月経リズムを把握、仕事内容をコントロール

   今年9月、日本の研究グループが米国の医学誌に、月経の定説を覆す可能性のある成果を発表した。これまで正常な月経周期は年齢問わず25~38日とされ、外れれば月経異常とされていた。ところが、23歳で最も長くなり45歳で最も短くなるなど、年齢によって周期が異なっていることがわかったのだ。月経日を入力すると次の月経や妊娠しやすい時期を予測してくれるアプリ「ルナルナ」から得られた31万人分のビッグデータが元になった。

   今、研究者たちが注目しているのが現代女性の働き方と月経の関係。労働時間や仕事内容、睡眠時間などが月経に伴う症状などに影響を与えるのか、女性の健康を守る働き方を探っている。女性ホルモンは女性の体に大きな影響を与えるが、その分泌量は月経のたびに変動し、40代から急降下する。その動きに伴って月経痛や更年期症状などが起こる。しかし、こうした事情に十分手が差し伸べられないまま、女性たちは男性と同じように働くことを求められてきた。

   そんな月経の悩みをきっかけにフェムテックの開発をしているのがHERBIO社。おへそに貼って基礎体温を記録し、月経リズムを手軽につかむ装置だ。CEOの田中彩諭理さんは、この装置で体のリズムを把握し、出張など活動的な業務は月経後に入れるようにしているという。

血液で妊娠可能期間の目安が分かるキットは「妊活」に役立つ

   現在、不妊治療と仕事の両立に悩む女性が83%いるというデータもある中、不妊治療に役立つフェムテックもある。40歳の夫は早く子供が欲しいと思っているが、正社員として転職したばかりの32歳の妻は出産で職場を離れることに不安を感じている。この夫婦が取り寄せたのが、採血で妊娠可能期間の目安がわかるキット。試してみると、妻の数値は実年齢より高い36歳相当で、1年後から妊活をスタートさせることを決めた。

   働く女性にとっては、妊娠したあと仕事とどう両立させるかも大きな課題だ。妊娠中に仕事をやめた女性は6割にものぼる。こうした課題に応えるフェムテックが米国で生まれた。お腹に貼り付け、子宮の動きと妊婦と胎児の心拍を計測できる陣痛モニターだ。これまで1万2000人が活用し、早産を回避した女性もいる。

   社員の6割が女性というロート製薬では更年期に着目し、働きやすい職場作りに取り組んでいる。希望者に更年期症状に備えるためのフェムテックを提供している。エクオールという物質を体内で作れるか、尿でわかる検査キットだ。エクオールは、女性ホルモンと似た作用をする物質で更年期症状を緩和する働きが期待されるが、作れる人は2人に1人。この物質を作れない人のためサプリメントを紹介している。また、更年期セミナーを開きホルモン補充療法など最新の情報を提供している。さらに、男性の生活習慣病の予防が中心だった健康診断の内容も見直し、女性に多い隠れ貧血の検査を取り入れた。

進む研究、子宮内部に善玉菌、月経前後で異なるエネルギー源...

   性差に基づく技術開発を推進しているお茶の水女子大学ヒューマンライフイノベーション研究所・佐々木成江さんは「これまでタブー視されてきた働く女性の体の悩みがフェムテックの製品やサービスが出回ることで理解が深まり、社会全体で解決していかなければと意識が高まることを期待している」と話す。

   特に現代の女性に影響を与えているのが月経の回数の増加。妊娠授乳中は月経がないが、産む子どもの数が減っている現代女性の生涯の月経の回数は増えており、100年前の9~10倍の約450回と言われている。管理職になる40~50歳代では更年期の様々な症状に直面する。

   産婦人科医の宋美玄さんは「月経は当たり前にあることで、健康のあかしと思われているが、月経回数が増えると子宮や卵巣に負担がかかり、その結果として子宮内膜症や不妊症、卵巣がんも増えている」と話す。

   不妊治療も進化している。これまで無菌状態と考えられてきた子宮内部に5年前、米国の大学が善玉菌「ラクトバチルス」の存在を発見。受精卵の着床に影響している可能性が明らかになった。この善玉菌が少ない人にこの菌を投与すると、妊娠成功率が上がるかが研究している。これについて日本企業が検査キットの開発も進めている。

   女性の体に適したトレーニングの研究をしているのが日本体育大学の須永美歌子教授。運動機能が月経周期によってどう影響を受けているのか、運動前後の血液成分の変化を調べたところ、月経周期によって体を動かすときのエネルギー源に違いがあり、月経前は脂肪、月経後は糖を主に使っていることがわかった。これにより月経前は有酸素運動、月経後は筋トレなどがより効果を生む可能性が見えてきた。須永教授の研究を練習に取り入れている女子駅伝チームでは選手の月経周期を共有し、練習量に差をつけるなどの改革を進めた結果、全日本大学女子駅伝で29年ぶりにベスト3になった。

   お茶の水大学の佐々木さんは「性差という視点を忘れていないかを意識することで、ビジネスチャンスが広がっていくと思われる」と話した。

バルパス

NHKクローズアップ現代+(2020年11月24日放送「女性の体の新常識フェムテックで社会が変わる」)