2024年 4月 26日 (金)

<泣く子はいねぇが>
男鹿の伝統行事「ナマハゲ」。担い手の期待を背負った青年が、懸命に生きる。浮かび上がる人間愛に、温かい気持ちになった

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   監督作『ガンバレとかうるせぇ』などで高い評価を受けた佐藤快磨監督の長編デビュー作。佐藤監督の地元・秋田の伝統行事「ナマハゲ」を盛り込んだ青春物語に、是枝裕和が惚れ込み企画に参加した。仲野太賀、吉岡里帆の勢いのある若手役者の熱演、余貴美子、柳葉敏郎などのベテランの味のある芝居が光る。

   秋田県男鹿半島で暮らすたすく(仲野太賀)は娘の誕生に喜んでいた。が、妻のことね(吉岡里帆)は、父親になる覚悟が見えないたすくに不安を抱え、苛立ちを募らせていた。大晦日の夜、地元の伝統行事「ナマハゲ」に参加したたすくは、「酒を飲まずに早く帰る」ということねとの約束を反故にし、泥酔してしまう。そして、ナマハゲの面をつけたまま全裸になり、奇声をあげて走り回るたすくの姿がテレビで全国に放送されてしまうのだった。

   二年後、たすくは東京で一人暮らしをしていた。ことねに愛想を尽かされ、伝統行事に泥を塗ったことにより逃げるように地元を離れてきたのだ。東京にも自分の居場所は見つからず、くすぶった生活を続けていたたすくは、地元の親友、志波(寛一郎)からことねの近況を聞く。たすくの中でことねや子どもへの想いが募り、男鹿へと戻るのだが、地元の反応はとても冷たいものだった。

  • 映画「泣く子はいねぇが」公式サイト(https://nakukohainega.com/)より
    映画「泣く子はいねぇが」公式サイト(https://nakukohainega.com/)より
  • 映画「泣く子はいねぇが」公式サイト(https://nakukohainega.com/)より

車の中で妻に思いを告げるシーンに、激しく心が乱された

   本作の重要な要素となる「ナマハゲ」は誰もが知っている伝統行事であるが、少子高齢化による深刻な後継者不足に悩まされている。主人公たすくは、亡き父がナマハゲの面の職人ということもあり、伝統行事の担い手として地元住民の期待を背負っている。重くのしかかるその期待が、妻の反対を押し切り、たすくをナマハゲに誘い、泥酔全裸事件を引き起こしてしまう。ナマハゲは、家庭にも居場所を見つけられずにいるたすくにとって唯一の居場所であることがテンポ良く説得力をもって描かれているため、それが失われてしまうという冒頭の展開が胸を打つ。ナマハゲの面をつけたまま全裸で冬の浜辺を走るたすくの姿は、滑稽だからこそ悲哀にあふれたすばらしいシーンだ。

   展開の妙もさることながら、仲野太賀、吉岡里帆のかけ合いに息をのんだ。寒々とした男鹿半島の海岸沿い、車の中で想いを告げるたすくをことねはやさしく拒絶する。役者の芝居、丁寧に切り取ったカメラワーク、音や光の演出、映画のすべての要素が絡み合い、どんなに激しいアクションシーンよりも、車の中で座って話しているだけのこのシーンに、私の心は激しく乱される。その後のクライマックスに向けての展開は多少強引に映るかもしれないが、浜辺の静を利用した「これしかない」というカタルシスにあふれたラストが待っている。

   佐藤監督は「大人」「父親」「男」といった画一化された像に押しつぶされそうになりながらも懸命に生きる主人公の姿を通して、人間の弱さと強さの両面を描いた。そこに浮き上がってくるのは人間愛だ。鑑賞後、どこか温かい気持ちになったのはそのためだろう。

   おススメ度 ☆☆☆☆

シャーク野崎

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