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買ってはいけない W杯切符付きツアー

   W杯観戦ツアーは意外に盛り上がっていない。チケットが手に入らないからだ。しかも、チケット付きツアーはFIFA(国際サッカー連盟)の規約違反で、そもそも企画してはいけないのだ。この事実を知らないファンは多い。ただ、情勢しだいでは大挙してドイツに乗り込む可能性も残っている。

   サッカーW杯ドイツ大会の観戦チケットが入手できなくなったとして、旅行会社マックスエアサービスが2006年5月31日、ツアー中止を発表した。同社が中国の旅行会社「中国国際体育旅遊公司」と契約し、チケット3,744枚分の代金約8,000万円を支払った。約1300人から申し込みがあり、客からの入金が2億8,000万円に上った。それが突然中国の会社から「チケットは1枚もない」と告げられたのだという。同社の指田清一社長は集まった報道陣に「中国の会社を信頼していた。騙されていたと確認できれば法的措置をとる」と話した。

大手旅行会社は「ツアー中止」に冷ややか

   しかし、大手旅行会社は冷ややかだ。ある大手はJINビジネスニュースの取材に対し、「チケット付きの旅行を企画するなんて、信じられない」と明かした。

   実は、日本サッカー協会から『チケット付きツアーはFIFAの規約違反』という通達を受けていたからで、チケットを持っている客に向けたツアーしか今回は無いのだ。苦肉の策でチケットが付かないツアーを企画する旅行会社も出た。JTBの場合、W杯が迫った今でも「まだうまっていない」(JTB広報)状態なのだ。

   FIFAがツアーを禁じたのは1998年のフランスW杯での混乱の経験からだ。チケットを現地調達しようとフランスに世界中からサッカーファンが集まり試合会場を取り囲んだり、「幽霊チケット」のあおりで会場に入れなかったりという不祥事が続発した。
   日通旅行では、

「初めてのW杯出場で日本中が沸くなかで、旅行業界全体はW杯に関する知識が乏しく、結果的に様々な問題が生じてしまった」

   と話した。
   ある旅行会社の営業マンは「ボストンバッグに5,000万円詰め込み、フランス国内で、フランス杯ツアーのためのチケットを、ダフ屋などから買い漁った」と思い出を語った。
   チケットの転売で価格も暴騰しFIFAに非難が集中、こうした状態を回避するためにFIFAが講じた対策なのだ。

「本人確認は不可能だ」と分かると、騒動が起きる

ネットオークションに出品されているW杯チケット。「名義変更はできません」などのただし書きが目立つ
ネットオークションに出品されているW杯チケット。「名義変更はできません」などのただし書きが目立つ

   今回はFIFAの通達を重視し、旅行会社はチケット付きツアーは企画しなかった。
   フランス大会は日本から3万人の旅行者がいたが、今回は2万人程度と見られている。

   さらに、ドイツ大会では組織委員会に販売を一本化し、チケットに購入者の名前などを登録した集積回路(IC)を埋め込むなどして本人確認(ID)をする。サッカー会場に入るためには、チケットに書かれている情報とパスポートなどの身分証明書で本人確認する。一度ID登録されたチケットを他者に渡す場合には、登録し直さなければならない。サッカーファンの間では「犯罪で捕まったとか、出産で病院に入ったとかでなければIDは変えてもらえない?」などという噂も流れている。だから、友達からもらったり、ダフ屋から買ったとしても会場に入れない可能性があるのだ。
   ヤフー・オークションには「IDなどの問題で入場できない場合は責任を取れません」などと出品者の但し書きも書かれている。そのせいか、チケットの値段も上がっていない。
   しかし、どうやらそれだけでは終わらないようだ。「まだドイツ杯を見るチャンスはある」と信じているサッカーファンは意外と多いのだ。
   それにも理由はある。ID確認などは不可能だ、という見方だ。何万人もの入場者をいちいちチェックできるものなのか。
   都内に勤務するサッカーファンの男性会社員はこう明かす。

「フランス大会でも本人確認をすると言いながら、結局はスルーだったわけです。日本のサッカーファンは情報を集めている段階で、仮にドイツ大会第1試合とかでスルーだった場合、チケットをどこからか購入して、日本から大挙してドイツに乗り込む事になると思う」

   その場合は、チケットをめぐる「狂想曲」がまた展開されそうだ。