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あのときフリーターをやめたから結婚できた(上)

   縁結びの神様は不公平だ。異性にモテまくって何回も結婚のチャンスが巡っている人もいれば、ほとんどチャンスが与えられない人もいる。だがどんな人でも、社会に出て異性と触れ合う機会をもっていれば、いつかどこかでチャンスはやってくる。問題は、その数少ないチャンスをものにできるかどうかだ。

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フリーターから一転、グラフィックデザイナーへ

   宗方智(さとる)さんが東京・神保町のグラフィックデザイン事務所に勤め始めたのは27歳のとき。それまでは気ままなフリーターで、ガテン系のバイトを転々としていた。定職につくのはこれが初めてだった。

   高校卒業後は絵が描きたくて美大の油絵科に進んだ。だが、大学が性に合わなくて中退。それからトラックの運転手や警備員の仕事をしながら趣味で油絵を描いていたが、30の大台が近づくにつれ、将来に対する不安が強くなった。

   「このままじゃ、やばい」。そう思って一念発起。なんとか自分が学んだことを生かせる仕事につきたいと思って、グラフィックデザイナーとしての就職を目指した。できれば華やかな広告関係の仕事がしたかったが、ことごとく落とされた。ようやく拾ってくれたのが、この会社だった。

「入ってみたら、めちゃくちゃ忙しくて、フリーターとは全然比べ物にならなかった。終電で帰れずに徹夜することも頻繁にあったし、土日もよく出ていた。ああ、これが社会に出ることなのか、と痛感しました」

   デザイナー数人の小さな事務所。一緒に入社した同期は他に2人いたが、あまりの過酷さに1年もたたないうちにやめてしまった。しかし智さんはフリーターに後戻りするわけにはいかない。覚悟をきめて、がんばった。

田舎から出てきた弱々しい「子供」の正体

   智さんがデザイナーとして働き始めてから1年後の春。去っていった同期の穴を補うべく、3人の新入社員が加わった。その中の一人が、地方の短大を卒業して単身上京してきた古田ひかりさんだった。

   童顔で小柄。純朴な風貌で、ハタチという年齢よりもだいぶ幼くみえた。

「最初の印象は、子供みたいのが来ちゃったなという感じ。弱々しい雰囲気で、きっとうちの会社の厳しさには耐えられないだろうと思った。正直なところ、3人の新人のなかで最初にやめるだろうな、と思いました」

   しかし、智さんの予想は思いっきり外れた。ひかりさんは、最初にやめるどころか、3人のなかで飛びぬけて仕事ができる“スーパールーキー”だったのだ。

   仕事の量がハンパじゃないので、毎日終電帰りになってしまうような会社だ。ところが、ひかりさんだけは仕事が速く、遅くても9時ぐらいには帰ってしまう。それでいて与えられた業務はしっかりこなしていたし、デザインのクオリティも高かった。

「地方の聞いたこともないような短大でイラストを描いていたというんですが、仕事をさせてみると、なんでも器用にこなしてしまう。僕なんかよりも能力ははるかに上でした。半年たったころには、先輩たちも『この子はいけそうだから育てていかなきゃいけないな』と言っていました」

「こんなに自分に合う子はほかにいない」

   秋になると、ひかりさんと同期の新人たちは一人、二人と辞めてしまい、彼女だけが残った。「ひかりちゃんの面倒をみてあげて」。上司の指示もあって、智さんはひかりさんと仕事の話をたくさんするようになった。

   ひかりさんは抜群に仕事ができたが、自分の限界を超えるとパニックになってしまう欠点があった。

「20段の跳び箱をとべる人が、21段になったとたんに激突しちゃうみたいな感じ。あんなに余裕そうだったのに、なんでこれ一つ増えただけでパニックになっちゃうのかな、と思うくらいでした」

   パニックに陥って「もうできません」とSOSを出してくるひかりさん。そんな彼女のために、智さんは「この作業は何時間で、この作業は何時間……」というようにスケジュールを組んであげた。すると、さっきまでパニック状態だったのがだんだん落ち着いてくる。結局、計画通りにやってのけて、仕事を完遂することができた。智さんはひかりさんの貴重なサポート役となったのだ。

   厳しい会社だったので職場で仕事以外の会話をすることはほとんどなかったが、たまに雑談をするとなぜか波長があった。これまでの人生で「他人とコミュニケーションをとるのが苦手だ」と感じていた智さんにとって、それは不思議な出来事だった。

「それまで僕はどうも、人とうまくキャッチボールをすることができなかったんですが、彼女とはうまくできた気がしました」

   こんなに自分と合う子は、後にも先にももういないだろう。そう感じた智さんは、自分の想いを告白するチャンスがくるのをじっと待つことにした。

(つづく)

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社内結婚必勝法 其の5

    仕事をがんばっていれば「恋愛運」も開けてくる

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   ※記事中の人物名は仮名です。



社内結婚必勝法

社内結婚を果たした人たちに実際にインタビューして、どのようにして出会い、交際を育み、結婚にいたったのかを聞く。「婚活時代」といわれる現代の、新しい恋愛法則が見つかるも!?