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「私もブラック会社に入ってしまいました」

   できることなら入りたくないブラック会社。J-CAST会社ウォッチでは2008年12月に「泥のように働かされる『ブラック会社』どう見分けるか? 」という記事を掲載したが、09年3月、ある読者から「私もブラック会社に入ってしまいました」というメールが届いた。ブラック会社といってもいろんなタイプがあるが、どんな会社だったのだろうか。話を詳しく聞いてみた。

「ばかやろう!」社屋に響き渡る怒鳴り声

一度はまってしまうと、ブラック会社の「闇」から抜け出すのは容易ではない
一度はまってしまうと、ブラック会社の「闇」から抜け出すのは容易ではない

   白井優子さん(仮名)は30代後半の女性。関西地方の出身だが、社会人としてのキャリアの半分以上を中国で過ごしてきた。金融関係をはじめ複数の会社で働いてきたが、新しい世界にチャレンジしようと思い、中国南部にある日系の雑貨メーカーに転職した。

「その会社は急成長中のベンチャー企業で、社長も30歳と若かったんですね。不安はありましたが、『一緒に会社を大きくしていきましょう』と権限の大きいポジションを提示され、金銭面の条件も悪くなかったので入社することに決めました」

   しかし、いざ入ってみると、初日から彼女を驚愕させる出来事が待っていた。エネルギッシュな若社長は稀に見るパワハラ男だったのだ。

「ばかやろう!ふざけんじゃねえ!」

   午前中から社屋に響き渡る大声で、社員たちを怒鳴りつける。まるでヤクザの事務所かと思うほどの勢いで、男女問わず言葉の暴力を浴びせかける。20代の女子社員に対しては、「バカ女!」「ブス!」「ババア!」「おばはん!」とほとんどセクハラの域だ。

若手社員は完全な自信喪失状態

   しかも社員が大きなミスをしたから叱っているというわけではない。自分の都合、そのときの気分だけで、目の前にいる社員に食ってかかるのだ。言葉だけではない。男性社員の中には強烈な蹴りを入れられた者もいるのだと、別の社員から教えてもらった。

「私もこれまでいろんな上司の下で働いてきましたが、あそこまでひどいのは初めてでした。世の中にはこんな会社があるんだと心底びっくりしましたね」

   社長はそんな調子で毎日怒声を張り上げていた。おかげで若手の社員たちは萎縮してしまう。特に気の毒だったのは、新卒で入社したばかりの1年生社員だ。ただ怒鳴られるだけで、仕事で何をすべきかをきちんと教えてもらっていないため、自分の頭で判断する力がまったく育たない。

「完全な自信喪失状態に陥っていて、簡単な仕事を振ろうとしてもすぐに『私、できませんから……』と自己否定しちゃう。新人の子は小さな達成感を積み上げていくのが大事なのに、全然そうじゃないんですよ。そんな姿がとても不憫でしたね」

「このままでは自分が壊れてしまう」

   さらに「信じられない」と思ったのは、社長や営業幹部が取引先と話をしているときに、ライバル会社のことを口汚く罵っていたことだ。

「『あいつら、つぶれればいいのに』といった暴言をお客様の前で平気で口にするんですよ。狭い業界でやっているのだから、いつ自分にかえってくるか分からないのに……。商売人としてのモラルが完全に欠如している。私はこの人たちとは一緒にやっていけないなと思いました」

   白井さんにとって信じがたい出来事が続いたせいで、入社して2週間をすぎたころから、彼女の体調はおかしくなった。夜はよく眠れず、食事ものどを通らなくなった。このままでは自分のほうが壊れてしまう。そう思った白井さんは、このブラック会社に見切りをつけることにした。

   入社してわずか1ヶ月。白井さんはこの会社を紹介した人材エージェントに「辞めたい」と相談した。もしかしたら引き止められるかもと思っていたが、「わかりました。社長さんに電話をかけてください」とあっさりした返事。社長に電話すると、同じように「そうですか」と淡々と受け入れた。

「人材エージェントと社長の対応を聞いて、『やられた!』と思いましたね。彼らはもう慣れっこなんですよ、こうして人が辞めていくことに。あとで別の人材紹介会社に聞いたら、この会社は求人募集を毎月のように出しているので有名なんだそうです」

   はからずも、ブラック会社という「穴」に落ちてしまった白井さん。いまは次の転職先を見つけるべく、就職活動をしているところだ。