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休職中の同僚より「人事考課」が低いって、どういうこと?

   メンタルヘルス不調には長時間労働や職場の人間関係が影響することもあり、休職者が早期に職場復帰できるよう手厚いフォローを考える会社も多い。しかし景気が悪化し不調者が増加すると、休職者の都合のみを優先できなくなることもあるようだ。

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こんなことなら頑張るだけ損

――外資系IT会社の関連商社で働く人事担当です。最近、メンタルヘルス不調による長期休職者が増えていますが、これにつれて社内ルールに齟齬が出はじめています。
   当社では人事考課をいくつかの基準を組み合わせて行いますが、ベースになるのは5段階の相対評価。業績が上位10%の社員はA評価、下位10%はE評価となります。
   しかし社内規定には「休職者の人事考課は最低ランクからひとつ上とする」と定められていて、自動的にD評価が与えられます。
   すると、頑張って売れない社員よりも、会社を休んで療養している人の方が上という逆転現象が起きるわけです。
   休職者は賞与ゼロ、毎月の傷病手当金は給与の7割弱ではありますが、Eをとり続ける人は退職勧奨をするまでもなく退職していくケースが多いわけです。
   一方、休職者は会社にこない限り、そのようなプレッシャーにさらされることがありません。
   また、数年単位では昇給・昇格にも逆転現象が出る可能性もあります。営業部のB君からは、課長を通じて、

「確かに今期の成績は前期に比べると低いし、自分でも不本意です。でも、新しい市場を開拓するという会社のミッションに沿って活動した結果でもあるのです。従来の取引先のケアもしているし、休職者の穴を埋めてきた自負もあるんですが」
というクレームが来ましたが、今はごもっともと言うしかありません。こういうときは、どうすればよいのでしょうか――

社会保険労務士 野崎大輔の視点
「ノーワーク・ノーペイ」休職者は評価対象から外す

   この制度ができたころは「休職者は数か月で復帰する」という前提があり、不安なく休養してもらうために高めの点数をつけたのかもしれません。しかし、休職の長期化によって事態が変わっています。当然のことですが、きちんと働いて業績を上げた人を適切に評価しなければ会社は回っていきません。今回のような問題を放置すれば、働いている人たちの不満は募るでしょう。本来の「ノーワーク・ノーペイ(働かない人には支払われない)」の原則に立ち返り、休職者は5段階評価の人事考課の対象から外し、給与の算定も休職前の数字をベースとして別途計算しなおすべきです。

   このような考課方法の変更は、多くの休職者にとって不利益になるおそれがありますが、このご時勢では働いている人のモチベーションを優先せざるを得ません。従業員や労働組合などへの説明や話し合いが必要になりますが、会社の実情と方針を理解してもらえるよう説明するしかありません。

臨床心理士 尾崎健一の視点
「何によって社員を動機付けるか」によって変わる

   メンタルヘルス不調に限らず、何らかの事情で仕事を休まざるを得なくなる状況は、誰にでも起こりうるもの。まさに「明日はわが身」です。ノーワーク・ノーペイの原則を貫かなければ、真面目に働く人がいなくなるという見方も理解できますが、会社は「社会人の生活維持や成長を支える場でもあり、いざというときには助け合う共同体」という見方をする経営者がいてもおかしくありません。実際、経営危機が起きたときに、社員に犠牲を払ってもらって立て直した会社もあるはずです。その会社が、立ち直ったからといって掌を返したようにドライな制度を運用しようとしても、社員は納得しないのでは。

   短期的な成果に対する高額な報酬によって社員を動機付けていくのか、中期的な成果に対する安定的な報酬によって動機付けるのかは、会社の選択です。会社が方針を明確に示し、社員もそれが自分の働き方に合うかどうか判断するという時代に来ているのではないでしょうか。

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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。