目標達成のために作られたはずの組織が、構成員の快適さを追求し始めると衰退するという指摘がある。とはいえ、不快な職場では働く気も失せてしまうもの。ある会社では、出世街道まっしぐらのモーレツ社員が社内でひんしゅくを買っているが、周囲は口を出せないでいる。
――専門商社の人事担当です。リーマンショック後の低迷からようやく抜け出し、取引案件の明るい話題も増えてきました。
一方、現場で働く人からは「仕事が楽にならない」という声も聞かれます。先日、貿易部門に所属する若手社員から、主任のTさんのやり方がキョーレツすぎてついていけない、という相談メールが直接人事に送られてきました。
「夜の9時から打ち合わせを設定したり、プレゼンの準備だといって朝6時に集合をかけたりするのです。みんな、自分たちの仕事のペースもあるし、プライベートの用事だってある。これではカラダが持ちません」Tさんは昨年から主任になった営業マン。毎朝7時に出社し、1日に5~6件の顧客訪問をした後に、その日に受けた依頼を夜遅くまでかかって仕上げます。接待や仕事で帰宅が深夜になっても、翌朝の出社時間は変えず、体育会系らしく身体の強さも折り紙つきです。
御社の規模や成長段階を踏まえて、いま何が重要なのでしょうか。目の前の利益であれば、ハイパフォーマーのTさん個人を厚遇し、彼についていける人たちを適宜配置することが得策です。一方、継続的、安定的な業績向上を目指しているのであれば、組織としての成長も大切になってきます。今の状態を放置すると、退職者や病人が続出するでしょうから、Tさんをいちどチームから外し、新たなリーダーを置いて人を育てる道もあります。Tさんには別の人とチームを組ませるか、単独で進められる仕事をお願いしましょう。
Tさんの上司は、部内の労働時間管理を適切に行っているでしょうか。Tさんが同僚に対してパワハラに当たる言動をしていないか、監督しているでしょうか。もしTさんの仕事の進め方が不適切であったり、乱暴な言動があったりして、かつ上司の注意を聞き入れないようであれば、いくら高業績を上げていてもTさんは退職勧奨や解雇の対象になりうると思います。
人にはそれぞれタイプがあり、グループを組ませる上で、同じタイプで揃えた方がよいか、違うタイプを組み合わせたらよいのか、悩ましいものです。人の成長や能力発揮には、人間関係が大きく左右します。正解はありませんが、人事権を持った人はよくよく考えて人の配置を考えるべきです。
Tさんは典型的な「タイプA」と呼ばれる行動パターンの人です。競争心や出世意欲が強く、常に多くの仕事にのめりこもうとします。高い業績を上げるので上司から重宝される一方で、非寛容で敵対的な態度をとるため、職場の秩序や人間関係を乱したり、パワハラの原因人物となったりすることもあります。
他人のメンタルヘルス不全には理解を示さないこともある一方で、環境の変化などによって自分の業績が上がらなくなると、「そんなはずはない」と自分を追い詰め、ポキンと折れるように心身の調子を悪化させてしまう人もいるので注意です。また、タイプAの人は脳疾患や心臓疾患にもかかりやすいという研究結果もあります。
(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。