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熱心に退職勧奨していたら、人事部から叱られた

   震災の影響は被災地だけでなく、東北の会社と取引していた他の地域の会社にも大きな影響を与えている。業績悪化を受けて、急きょリストラを行う会社もあるようだ。

   ある会社では、やむをえず社員に退職勧奨を行ったが、そのやり方をめぐってトラブルに発展しそうな雲行きになっているという。

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会社と社員のことを考えたつもりだが

――製造業の営業部長です。このたびの震災で取引先の多くが大きな被害を受け、その影響で当社も事業が立ち行かなくなってしまいました。

   会社を清算すべきという意見もありましたが、まずは規模を大幅に縮小し、当面は事業の継続を図ることになりました。

   そこでターゲットになったのが、わが部です。一時は人手が足りないほど多忙で、昨年かなり増員したことも災いし、7~8割の部員は仕事がなくなってしまいました。

   やむをえず、とりあえず5人を対象に退職勧奨をすることになりました。人事部の担当者を交えて個別面談をしたところ、4人が納得し、再就職先も内定したのですが、Aさんだけは次回持ち越しに。

   そこで人事が帰った後、私と担当課長、それにAさんが属するグループのリーダーなどとともに、もういちど部内でAさんを説得してみようということになりました。

「悪いことは言わないから、いま退職願を書いたほうがいいよ」
「ここに残っていても、残念ながら仕事はない。給料も下がる」
「いまならいい条件で他の会社に行ける」
「粘りすぎると解雇になるおそれもあるし」

   熱心に話をした後、Aさんは先に帰宅したのですが、すぐに人事から電話があり「Aさんに聞きました。勝手なことをしてもらったら困りますよ。この話は次回まで触れないでください」ときつく注意されてしまったのです。

   会社のこと、彼のことを考えて、間違ったことをしたつもりはないのですが、何がそんなに悪かったというのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
退職に応じない「自由」を妨げてはいけない

   退職勧奨に応じるかどうかは、Aさんの自由です。退職の義務がないのに無理やり辞めさせようとすることは退職強要にあたり、不法行為で慰謝料を請求されるおそれがあります。部長さんは責任感が強いだけで悪気はなく、結論を急いでしまったのかもしれませんが、退職勧奨のやり方にはくれぐれも注意すべきです。

   脅迫や暴行はもちろんのこと、執拗な説得であっても退職強要とみなされます。1人に対し5人くらいの大勢で説得をしたり、密室で2時間以上も続けたり(通常は長くても1時間程度に収めるべき)、退職に応じないからといって何度も繰り返すのもよくありません。どうしても応じてもらえなければ、整理解雇などへ手続きを移すべきです。1対1で面談するのも、後で「言った言わない」のトラブルの元となるので避け、説明は2人で行うのがよいでしょう。退職勧奨に応じてもらう場合には、その内容を記した同意書兼退職届にサインをしてもらうのを忘れずに。

臨床心理士・尾崎健一の視点
対応の初期段階で「感情のもつれ」を避ける準備をする

   震災の影響を考えれば、もしかしたらという心の準備があったかもしれませんが、いざ自分が退職勧奨の対象となると、誰もが強いショックを受けるものです。トラブルを起こさないために、初期段階で感情的なもつれを避ける対応を準備すべきです。

   退職勧奨をせざるを得ない事情を説明し、「会社に貢献してくれたことに感謝するが、今の当社では能力を活かしてもらえない」「会社としても苦渋の決断であるが、今後の勤務先も含めて最大限協力したい」など、プライドを傷つけない言葉選びと十分な説明が必要です。

   会社都合である限り、できるだけ条件の譲歩を図ることも重要です。会社もダメージを受けているので無理はできないでしょうが、退職時期の配慮をしたり、できる限りの退職金を支払うなど誠意を尽くすことで納得してもらいやすくなります。今回の場合は難しそうですが、体制を立て直した後の優先的な再雇用の可能性を示す会社もあるようです。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。