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リハビリ勤務中の社員に「労働条件の不利益変更」どう説明する?

   労働政策研究・研修機構の調査によると、メンタルヘルスに問題を抱えている社員がいると答えた大手企業(従業員1000人以上)は72.6%にのぼるという。メンタルヘルス不調者が陥るパターンで最も多いのは「長期にわたって休職または休職・復職を繰り返す」と答えた会社も11.1%あったそうだ。

   ある中堅企業では、復職したものの元のようなペースで仕事ができない社員が現れたため、リスク回避のために会社のルールを厳しく変えようとしている。しかし、「目の前で苦しんでいる社員」にどう適用すべきか、悩んでいるという。

「新ルールを適用して直ちに退職」と言えるのか

――ソフトウェア開発会社の人事です。相変わらずメンタルヘルス不全で休職する社員が跡を絶ちません。数はだいぶ減ったのですが、やはり一定数は出てしまいます。

   休職者の中には職場復帰を無事果たした社員もいますが、復職をあきらめて退職した人や、復職したものの元のような仕事ができないままの社員もいます。

   入社7年目のA君は、復職して1年半ほど経ちますが、いまだに補助事務、残業ナシの「リハビリ勤務」のままです。病気になる前は部門のエースと評されていましたが、いまはその面影もなく、仕事らしい仕事をしていないと言ってもいいかもしれません。

   そんなA君を、周囲はおおむね温かい目で見守っていますが、

「仕事できないしわ寄せが他の部員に行ってるんだよね」
「再休職させた方がいいんじゃないの?」

という声も聞かれます。

   いまのところ、リハビリ勤務に関するルールはありません。本格復帰が長引いたのはA君が初めてですが、今後のリスクを考えると、できることなら就業規則の休職規定を見直し、リハビリ勤務についても期限を設けたいと思っています。

   そこで問題となるのが、A君の扱い。これからのルールは社員の同意を得ればよいのですが、A君には言いにくいです。トラブルを避けるためには、どういう説明があるでしょうか。また、仮に期限を1年とした場合、それを超過しているA君に「もう期限をだいぶ過ぎちゃってるから退職でお願いね」といえるものなのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
A君に直ちに退職を求めることができない

   就業規則の変更には合理的な理由がなくてはならず、特に労働条件の不利益変更に当たる場合には労働者との合意も必要です。逆に言えば、これをクリアすれば今回のようなルール変更が可能です。休職者の保護は社会的にも大切ですが、期限を定めておかないと会社や同僚の負担が大きくなり、あらたな過重労働を招くリスクもあります。就業規則の見直しは、職場の秩序維持には必要な措置といえるでしょう。

   ただし、急な不利益変更は社員を混乱させるおそれがあります。一定の期間は適用しないなど、経過措置を設けた方がよいでしょう。また、新たに罰則規定を設けた際に過去の行為を処罰できないように(遡及処罰の禁止)、見直し後の就業規則を適用してA君に直ちに退職せよとはいえません。仮に新しいルールを「職場復帰後1年間」とするならば、規則見直しから1年間様子を見ることも考えられます。問題となるのがA君だけなら、個別に相談して期間を決めてもいいと思います。なお、休職やリハビリ勤務の期限満了後の扱いは、社員個別の事情があるので、「退職」「解雇」などと定めず、期限のみ定めておく方がよいと思います。

臨床心理士・尾崎健一の視点
復職のハードルが低すぎると再発率は高くなる

   休職期間とともに、復職の基準も見直してはいかがでしょうか。リハビリ勤務が長引く人の中には、症状がよくならないまま無理に出社を開始した人が少なくありません。これを許してしまう理由のひとつに、会社の復職基準があいまいなことがあげられます。回復の不十分な段階での復職は、病状を悪化させたり寛解を困難にする場合があります。社員の今後の人生のためにも、回復を促進させる支援や基準であることが大切です。

   復職には「規則正しい生活のリズムの回復」と「仕事に必要な体力と能力の回復」の両面が必要ですが、これを職場で練習することは困難です。最近はこれらを外部のリワーク機関に任せて実施した後、復職の可否を判断する会社も増えてきました。

   復職基準としては、「リワーク機関で復職に向けた練習をすること」「復職前の2週間、図書館に毎日通うことができること」「復職後は朝9時に出社できること」といった具体的なもので設定しましょう。特に「朝が辛い」という理由で午後出社から始める職場が少なくありませんが、ハードルが低すぎると再度休職しやすくなります。最初から午前中勤務を前提に、生活のリズムを整えてから復職を許可した方が再発率が低いものです。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。