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トヨタ・ハチロクの「ソーシャルすぎる」ウェブサイトに未来の予感

   最近ニュースを知るきっかけが、フェイスブックで友達が「いいね!」していたから、という人が増えているのではないだろうか。Googleの検索順位よりも、自分の友人が評価しシェアした情報の方が重要で接触機会も多いというわけだ。

   そんな「いいね!」を、企業のウェブサイトに大胆に取り込んだ例がある。2011年の東京モーターショーでプロトタイプが公開され話題となった「TOYOTA 86」(ハチロク)の公式サイトだ。

訪問者の「いいね!」をトップページに表示

訪問者にどの車種が人気か一目で分かるハチロクのサイト
訪問者にどの車種が人気か一目で分かるハチロクのサイト

   ハチロクサイトのトップページには、他の自動車メーカーのサイトと同じように、さまざまな車種の美しい写真が飾られている。他社サイトと異なるのは、その写真の隅に数字が表示されているところだ。

   これは訪問者から寄せられた「いいね!」の数である。フェイスブックにログインした状態でサイトを訪れると、「いいね!」やコメントを好きなだけサイトに残すことができるのだ。何に「いいね!」を押したかは、フェイスブックの友達にも知らせることができる。

   現時点での一番人気は、上質感のある白が人気のサテンホワイトパール〈37J〉で、1300近い「いいね!」がついている。最もグレードの高いGT"Limited"や、ライトニングレッド〈C7P〉、クリスタルブラックシリカ〈D4S〉なども、評価数で上位となっている。

   各画像にマウスのカーソルを合わせると、口語的なテキストが浮かび上がる。これは車種のページに訪問者が投稿したフェイスブックのコメントだ。「かっこいいなー!」「素敵な色ですね?!」といった賞賛だけでなく、

「メタリックやっぱり入れてほしい」
「AE111型Levinの(…)白の復活を望みます」

など、思い入れたっぷりの注文もある。

   これまでの企業のウェブサイトといえば、企業側が発信したい情報しか掲載されておらず、訪問者として白けるものも少なくなかった気がする。

   ハチロクのサイトは、これとは逆の発想で、「利用者の声」を前面にしているところに新しさがある。現時点ではダントツで「ソーシャルすぎる」日本企業のウェブサイトと言ってよいだろう。

訪問者のコメントが、コンテンツを補う役割も

「赤が似合うトヨタの車って久しぶり」とのコメントも
「赤が似合うトヨタの車って久しぶり」とのコメントも

   「いいね!」やコメントが残せるのは、車種のページだけではない。

   「ハチロク。トヨタが、そして日本の大人たちが、長いあいだ忘れていたこと。」というメッセージを打ち出したコンセプトのページや、「この国の技術の粋を集結せよ。」というキャッチコピーを掲げたエンジンの説明ページにも、利用者の声が反映できるようになっている。

   エンジンに刻まれているトヨタとスバルの社名を「もっと大きく目立たせて欲しい」というコメントも見られる。企業側が意識していなかったポイントを訪問者が補い、それを他の訪問者が参考にできるという見方もできるだろう。

   サイト全体の「いいね!」数の人気ランキングは、トップページの左上の目立つ場所に表示されており、最初に訪れたユーザーがどのページが面白そうか、そのページから閲覧しようか判断できる材料となっている。

   通常、この場所にはサイトのナビゲーションが表示されているのが通例だ。企業が訪問者に見てほしいコンテンツに誘導するスペースである。そこをリアルタイムで変動するランキングにするということは「我々が打ち出したいコンテンツよりも、皆さんが評価したコンテンツを楽しんでいってくださいね」という意思表示とも読める。

   ハチロクのサイトは、企業が素材を提供し、ファンが集って「あれがいい、これがいい」と会話しやすい場作りの裏方役に徹しているように見える。これはトヨタ自身が、自社ブランドに対して自信があることの裏返しなのかもしれない。

自分が撮った写真が看板になるゲーム

左の建物の壁に飾られているのはフェイスブックにアップロードしたパスタの写真
左の建物の壁に飾られているのはフェイスブックにアップロードしたパスタの写真

   ハチロクは、最新情報を提供するフェイスブックページのほか、フェイスブック内で遊べるゲームアプリ「Social Network Racer」も展開している。レーシングコース沿いのビルボードや建物の外観などの街並が、ユーザー仕様にカスタマイズされるのが特徴だ。

   コースには、フェイスブックに登録されている自分や友達の名前、「いいね!」しているフェイスブックページの名前をかたどられている。アップロードした写真がビルボードに登場したり、タワーには友人の写真が散りばめられる。

   ビルの壁面には投稿したコメントが映し出されたりもする。レースが終了すると、走行タイムが自分のニュースフィードにはきだされ、拡散されるという仕組みだ。TOYOTA 86が訴求する「走ることの悦び」を友人と共有し合えるゲームとなっている。

岡 徳之