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自営業のお客さまは、債権回収OLの「タフな教育係」でもある

「あのぅ、ご入金をお願したいのですが…」
「はいはい、わかってるよ。でもちょっと今支払える日がハッキリしないんですよねェ~」
「で、でも前回お話させていただいた時も、そうおっしゃってましたよねっ!」

   ある日のこと、債権回収の電話をかけたお客さまに私はちょっと苦戦していました。相手は40代の男性、口調はとっても紳士的なのですが、なかなか支払い日をおっしゃっていただけないのです。

契約の隙間をねらい、ギリギリまで支払いを延ばす

知識も交渉術も負けていられない(イラスト:N本)
知識も交渉術も負けていられない(イラスト:N本)
「こっちも取引先からの入金を待ってるんですよ、お金が入ったら支払いますから」
「でも、お手元に資金はまったくないんですか?」
「あるっちゃあるけど、コレは運転資金ですからね、支払いに回すわけにはいかないんです。ちゃんと今月中には払いますから、1か月くらい遅れたって大丈夫でしょ? じゃあそういうことで!」

   引き止める間もなく、お客さまは電話を切ってしまいました。履歴を見ると、ここのところ毎月1か月遅れで入金されています。これは私の会社で、カードが解約にならないギリギリの期間。うーん、見ぬかれています。

   お客さまは自営業をされている方でした。会社員のように毎月決まった給料日がなく、お金が入る日がハッキリ決まらないということもあるのでしょうが、手元になるべく現金を置いておきたいので、こういう方法をとっていると思われます。

   最近は貸金業法の改正によって、消費者金融などでの自営業の方の借り入れが難しくなっており、クレジットカードに付随しているキャッシング枠を事業の運転資金にされている方もいらっしゃるようです。

   とはいえ、1か月も放置しておくと延滞料金が膨らむおそれがありますし、お客さまとの間で「支払い日」を取りきめることは私たち債権回収OLにとっては大事なことです。支払い日が決まれば督促の電話を止めることができますが、決まらないとずっとかけ続けなければなりません。

   ここからの交渉は、私たちの腕の見せどころとなります。電話を切られる前に「○○日までお待ちします、入金できなかったら連絡してくださいね~」と約束日を刻むなど、いろんな工夫に知恵を絞ります。

並みのOLでは、知識も交渉術も及ばない

   自営業者のお客さまの手強いところは、取引先との間で「交渉慣れ」しているところと、「横のつながり」があるところ。どこまで延滞できるかの知識だけでなく、債権回収OLをウッと詰まらせるツッコミも巧みです。

「え、おたくのカードにそういう機能、ついてなかったっけ?」
「その決まりは、貸金業法の第何条に基づいて運用してるの?」
「お前のところの会社の社長、なんて名前なんだ? 住所は? 従業員数は?」

   支払いに直接関係ない話もありますが、すんなり答えられないと「なんだ、そんなことも分からないで債権回収やってるのか!」と優位に立たれてしまいます。

   教育係のK先輩は、自営業者の債権回収は「会社員の3倍難しい」「言い負かされるのは、あなたに『仕事に関する知識』が足りないからだ」といいます。確かに、うまくいかないときは相手の「知識」がこちらを上回る時が多い気がします。

   考えてみればお客さまは、そのまたお客さまからの売掛金回収などに日々苦労されているわけです。並みのOLでは太刀打ちできるわけがありません。本当に勉強されていただいております。

   自営業のお客さまは、債権回収OLの「タフな教育係」。自社のこと、お金のこと、交渉術、世の中のこと…。債権回収にも、いろいろな勉強が必要だなあとあらためて感じるこの頃です。(N本=えぬもと)