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「督促はひとりではできない」 誰にだって得手不得手がある

(ど、どうしよう。最近全然成績が上がらない…)

   コールセンターに入社して数年が立ち、もう新人とは呼べない年数になった頃、私はある仕事の悩みを抱えていました。

   入社当時は全然督促ができなかった私ですが、仕事を続けるうちになんとか回収できるようになり、そのころには人より少しだけ上の数字も出せるようになっていました。

   でも、経験を積んでもやっぱり私は人に強く言うことが苦手で、どんなに電話をかけても支払いをしてくれないお客さまを抱え込むようになっていたのです。

   個人の数字は次第に頭打ちになり、私はものすごく焦りを感じていました。

(はぁ、やっぱ女じゃなめられて払ってくれないのかなぁ)

先輩たちの「連携プレー」に目からウロコ

苦手な仕事は抱え込まない(イラスト:N本)
苦手な仕事は抱え込まない(イラスト:N本)

   そうやって毎日どんよりと仕事をしている私の前には、2人の男性社員の先輩が座っていました。H野さんとI村さん(仮名)です。

   2人は同い年でしたが、外見も中身も正反対でした。H野さんは柔らかな雰囲気の紳士的な男性。督促でも穏やかな口調で論理的に相手を説得し、お客さまに入金してもらう手法を得意としていました。

   一方、I村さんは昔やんちゃしてたことのある、ちょっと派手な外見の男性。督促もどちらかというと強めに出るタイプです。

「H野、このお客さま、お前向きだから頼むよ」
「了解。じゃあI村さん、このお客さま、ちょっとガツンとお願いできる?」

   (……ん?) ふと顔を上げると、目の前の先輩たちがこんなやり取りをしつつ、お客さまをトレードしていました。

   耳を澄ませると、H野さんは自分の担当しているお客さまの中で、どんなに筋道を立てて話しても入金してくれないお客さまをI村さんに渡し、I村さんは話しているうちに感情的になり口論になってしまうお客さまをH野さんに渡しています。

「このお客さまもI村さんの方が向いてそうだから、あげるよ」
「H野~、俺このお客さまに強く言いすぎちゃったからフォローして」

   2人は自分では回収できないと判断したお客さまを、自分とは違うスタイルで督促を行う相手に渡して回収を行っていたのです。

   I村さんが持っていたお客さまをH野さんが回収をすれば、H野さんの成績になります。でもI村さんからしてみれば、苦手なタイプのお客さまに割く時間をそれ以外の督促に充てることができるし、得意なお客さまをトレードすれば2人で回収成績を伸ばしていけるのです。

意地を張って仕事を抱え込んでいても解決しない

   協力しながら次々と延滞を解消している2人を見て、私は衝撃を受けました。

「そっか、督促ってひとりじゃできないんだな…」

   私は今まで抱え込んできた、どうしても入金してくれないお客さまの回収を、別の男性社員に頭を下げてお願いしにいきました。すると、男性が電話しただけで、そのお客さまはすんなりと入金になりました。

   もちろん、自分の力不足を悔しく思いました、でもあのまま抱え込んでいたら最後まで回収できずに、さらに長期督促を行う部署へと債権が移ってしまっていたかもしれません。そうすると私の個人成績だけじゃなく会社としても損失になってしまうし、お客さまの信用情報にもキズがつきます。

   自分が成績を上げたいからと意地を張ってお客さまを抱え込んでいても、なんにもいいことなんてないんだなぁ、と私は改めて思いました。

   それからは、自分では難しいと判断したお客さまは男性社員にお願いし、逆に私は男性だと家族が警戒して電話を取り次いでくれないお客さまを引き受けることにしました。

   誰だってできないことがあるし、得手不得手もあります。それを見つけて自覚することも、ひとつの成長なのかもしれないと思うできごとでした。(N本=えぬもと)