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あえて「国内産業の空洞化も悪くない」と考えてみる

   原発停止により、各法人はピーク・デマンドを引き下げるために、どうしても昨夏のように法人需要を抑えることになる。そうした政策が続けば当然、製造業を中心にした日本企業は電力の安定消費が可能な海外へ流出することになる。国内産業が空洞化してもいいのか――。前回まで、このような説明を行なってきた。

   センチメンタルな議論としては、国内産業の空洞化は回避すべき現象である。しかし、国内産業の空洞化は、もしかすると日本経済にとってそれほど悪いことではないかもしれない。今回は、空洞化が悪くないという仮説をサポートできそうな分析を紹介してみたい。

   なお、僕自身は今でも大阪市や府の特別参与をしているが、テーマは金融関係に限定されている。電力関係について相談を受けたこともないし、意見を述べたこともない。今回はそうした立場で、独立した僕自身の見方を述べていることをお断りしておきたい。

地元に貢献しているのは「広域化する企業」

広域展開企業の経済貢献度の集中~大阪府の例(%;平成20年度)(出典:大阪府戦略会議公開資料)
広域展開企業の経済貢献度の集中~大阪府の例(%;平成20年度)(出典:大阪府戦略会議公開資料)

   大阪府内には、21万社の企業が存在している。このうち7%に相当する1.4万社の企業は、大阪府以外にも工場なり支店なりの事業所を抱えている広域展開企業である。

   これらの企業が大阪府にもたらす貢献は、企業所得の65%、法人事業税の67%を占める。府内に閉じている企業よりも、圧倒的に経済的な貢献度が高い。図は3年前に大阪府の仕事をしたときの分析である。すでに、公開資料になっているので、府のホームページから誰でも全文を引き出すことができる。

   日本で2番目に大きな経済圏を抱える大阪でも、府内で閉じている企業より広域に展開している企業の方が、地元に落とすおカネがずっと多いのである。他の一般的な県であれば、広域展開企業の貢献度がさらに大きいことは、容易に推察がつく。

   実は、大阪府からは大企業が随分と流出している。パナソニック、サントリー、住友銀行とあげればきりがない。この分析をするまでは、府内の空洞化を嘆く声が多数あった。しかし、今どき広域化しない企業は競争力を失っていく。

   現在は、ITがビジネスの競争力の源泉となり、大規模生産によるコスト競争が進展しているので、市場が国境を越えてボーダーレス化している。このため、事業規模が一定水準を超えないと、競争力を保てない。もちろん匠の技術力が競争力につながる分野もあるが、たいていはボリュームを稼げず、ニッチな分野にとどまってしまう。

   一方で、広域化したからといって、直ちに本社を移転する会社は少ない。大阪にもダイキン、太陽工業などグローバル化した企業は多いが、基本的に大阪にとどまっている。海外に本社を移すこともまれだ。ソニーやトヨタだって日本に本社を置いている。

海外進出すればなんとかなるわけではないが

   実はこの分析だけでは、空洞化が悪くないとまで言い切れない。その理由は、府から外にはみ出して経済活動をしている企業を、ひとまとめにしているからである。

   もし広域展開企業を、海外展開をしている企業と、広域展開しているが国内のみの企業に分けてみたら、空洞化の是非についてより明確な議論ができただろうと今では思っている。

   こうした分析は、これだけ電力について熱い議論が続いているわけだから、今から誰かが手掛けてもよいはずである。

   もうひとつ注釈を加えておく必要がある。それは、海外進出した企業を平均化すれば、経済貢献度が極めて高くなるが、個別にみていくと必ずしもそうでないということだ。業績が低いままの企業も最近は増えている。

「コスト競争できないから、という理由だけで低コスト国に進出してくる企業は、進出後困難にぶち当たることが多い」

   これは、中国や東南アジアの日系企業の商工会や、日系銀行の支店長あたりからよく聞く話である。海外進出すればなんとかなる、という訳ではないということだ。

   日本の戦略を考えるうえで、どこまで積極的に製造業などの海外進出を支援していくのか。その見極めが、電力のピーク・デマンドを巡る現実的な解を探る上で大きな意味をもたらすのではないだろうか。

   原発廃止とピーク・デマンドの切り下げだけを取り上げて議論しても建設的ではない。海外進出による国内経済へのプラス効果も考慮した、日本の一体的な経済戦略の策定が今は大事なのだ。(大庫直樹)