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今度は九州の農協で横領 またしても「パート1人」に集金任せきり

   先週は四国の農協での横領を紹介したが、こんどは九州の農協で同じような事件が発覚した。4月2日、A農協が40代の男性パート職員Bによる現金着服を公表した。

   葬祭事業部門で働いていたBは、葬儀や法事代金の集金を一人で担当。昨年12月から今年3月にかけて、約600万円の現金と領収書控えを上司に渡さず着服した。すべてギャンブルに使ったそうだ。

   件の四国の農協と同じく、この農協でも職員による横領事件がここ数年相次いでいた。今年1月には元支店長が逮捕され、県からの業務改善命令が継続中だ。そんな状況下で、Bは10回もの横領を繰り返していたのだから、図太すぎると呆れるしかない。

銀行や信金なら「抜き打ち同行」は当たり前だ

銀行では業務用かばんの扱いにまで気を配る
銀行では業務用かばんの扱いにまで気を配る

   Bの上司は、集金が滞っていることには気づいていたようだ。回収を急ぐようBに何度も指示したところまではよかったが、部下が横領するとは思いもよらなかったのだろう。自分から確認に乗り出すことはなかった。

   そんなある日、「自分が着服した」というメモと領収書控えを残して、Bが行方不明に。上司は「まさか」と絶句したに違いない。

   「ちゃんとやれ」と言うだけでは管理者として失格だ。やっているかどうかをきっちり確認しなければならない。上司自ら「未収先」に電話するなり出向くなりして直接チェックしてさえいれば、Bの不正はすぐに発覚していたはずである。

   そろそろ農協も甘えを捨てて、すべての業務で銀行や信用金庫が当たり前にやっていることを忠実に真似することくらいはした方がいいのではないか。

   普通の金融機関では、渉外・集金担当者に対して以下のような厳しいチェックをするのが常識となっている。堅苦しいと感じるかもしれないが、現金を扱う仕事にはそれ相応の規律が必要なのである。

・業務用のかばんを限定し、終業時には中身を空にして金庫に収納する
・集金先に対して、上司が抜き打ちで同行訪問をする
・担当者一人ひとりに連番の付いた複写の受取証冊子を支給し、使用状況を上司が毎日チェックする。取引先には、所定の受取証以外信用しないように周知徹底する
・担当者に予告なく休暇を取らせ、別の担当者に集金業務を行わせる
・担当者が連続休暇により「職場離脱」している間に、上司が主要取引先に電話をしたり、担当者の机の引出しの中身をチェックしたりして、問題が隠れていないか確認する

地域性の強さを逆手にとって監視の目を強める

   横領事件が相次ぎ、逮捕者まで出して業務改善命令に直面しているにもかかわらず、A農協がパート一人に集金を任せきりにしたのはなぜか。

   地域性が強く、職員や組合員(農家)がお互いをよく知っている組織では、アットホームな職場風土ができる。働く人は「働きやすい職場の雰囲気」と歓迎するだろうが、それがぬるま湯体質につながると、相互チェックが甘くなりやすい。

   職員には「多少お金をごまかしても見つからない」という認識が生じ、経営幹部にも「いくら不祥事を出しても組織がなくなりはしないだろう」という甘えやおごりが生じる。

   そんな環境で働く職員がギャンブルで失敗でもすれば、「ちょっと借りるだけ」「多少のことはみんなやっている」「自分は給料以上に働いているから」と自己を正当化し、堕ちるところまで堕ちるのに多くの時間はかからない。

   地域性の強さがぬるま湯体質につながるのなら、それを逆手に取って緊張感を高めるしかない。例えば、組合員(農家)、地域住民などのステークホルダーが不審な点に気づいたら、農協を監督する県に通報できるホットラインをつくり、厳しい目で農協職員の活動を見守るよう呼びかければ、横領の抑止効果は格段に高まる。県にも、不祥事再発には「退場」命令を出すくらいの厳しさを求めたい。

   この4月には各農協にも希望に満ちた新入職員が加わったことだろう。彼らを路頭に迷わせないためにも、今度こそ、実のある業務改善を図ってもらいたい。もちろん、彼らにも入口の段階で健全な危機意識を刷り込むことが大切だ。(甘粕潔)