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「女性スタッフのひと言」に耳を傾け大成功 「先入観」は禁物だ

   今回は久しぶりに、うちの会社とその社長としての私のお話をします。

   うちの会社は埼玉・熊谷の街おこしに絡んで、地元でカレーショップを運営しています。例年、年明けの1、2月は売上が落ちてやや低調なのですが、今年の2月は2回にわたる大雪の影響で、例年以上の落ち込みでかなり悲惨な状況になっていました。飲食店に季節要因はツキモノではありますが特殊要因も含めて思いがけない大きな減少を記録した場合、その回復はなかなか容易ではありません。

「引き戻し」策か「新規取込み」策か

雪の影響で…
雪の影響で…
「このままではまずい、取り急ぎ何かカンフル剤を打たなくては」

   私と店長は膝を詰めて対策協議に入りました。春を先取りするような華やかさのあるメニューでお客様に訴えかけ、冬場の寒さと相まって店離れをしているであろう実績顧客の引き戻しができないかと問いかける私。対して店長は、即効果が出るようなインパクトのあるメニューを考えるのは容易ではないと浮かない顔です。

   こんなケースでは、考えるべき方向は大きく分けて2通り。ひとつは私が提案したような主に足が遠のいている従来の顧客に対して何らかの働きかけをして、引き戻しをはかる策。もうひとつは、新規顧客向けのキャンペーンを張って、新規開拓で一気に売上の回復をはかる策です。私の印象では、これまで約3年間売上が安定的に推移し固定客数も順調に増えてきていたことから、実績のあるお客さんを呼び戻す策の前者と、新規取り込み策の比較では、後者のハードルの方がはるかに高いという感じでした。

   そんなわけで店長と議論を2~3日繰り返し、私の考えをベースに従来顧客の引き戻し策という方向感は一致したのですが、なかなか具体的な妙案には結びつきませんでした。そんなある日、30代半ばの女性スタッフに、何かいいアイデアはないものかと雑談的に問いかけてみたところ、予想外のアイデアが発せられたのです。

きっかけがないとなかなか敷居が高い

「当店のメイン・ターゲットである30~40代女性の心理として、ずっと入ってみたいと思っているお店でもきっかけがないとなかなか敷居が高いものです。私は複数の友達からも、『一度あなたが働いているカレー屋さんに行ってみたいのだけれど、なかなかチャンスがなくて』と言われています。彼女たちみたいなお客さんは実はたくさんいると思います。彼女たちが『なかなかない』と言う来店のチャンスを与えてみてはどうでしょうか」

   一言でチャンスと言われても難しいのですが、彼女はそのあたりも心得ていて、「ワンコインで、当店の代表メニューをセットで食べられるようなお試しメニューがあれば絶対来る」と胸を張ります。新規獲得はハードルが高いという先入観でハナから外していたのですが、より顧客寄りのしかも生の声を踏まえた提案が出されたことで、既存客向けの妙案が浮かばない以上、その方向で具体策を検討してみようということになりました。

   彼女の具体案は、ターゲット層の女性はあれこれ食べられてお得感のあるものが大好きとの考えから、「ハーフサイズの野菜カレー+手作りカレーパン+サラダ+ドリンク+デザート」という、500円でとんでもなくゴージャスなメニューでした。私からコスト管理をうるさく言われている店長は、「そこまでは無理」と言いかけたのですが、私がそれを制して「良い発想をもらったのだから、やるなら中途半端じゃダメだ。新規顧客の取り込みが目的なら多くの新しいお客さんに来てもらえるよう、思い切ってその案でいってみようじゃないか!」と決断を下しました。

顧客の立場で意見をくれたスタッフに大感謝

   自分の意見が通ったスタッフは大喜び。コスト割れギリギリのキャンペーン案に驚き顔の店長には、「スタッフの進言を信じてやってみよう。赤字にならないようにだけ管理を頼むよ」とお願いして、背水の新規顧客獲得キャンペーンがスタートしました。

   結果は驚くほど早く出ました。初日から大人気で、1日限定20食のキャンペーン・メニューは午後1時前には連日売切れ状態に。店内の満員御礼状態が続くことで、通りがかりの既存客や新規客も続々店に呼び込む効果があり、予想しなかった通常メニューのかさ上げもかなりできました。その後も、口コミ効果やワンコイン・メニューのリピート効果により来店客は月合計で3割以上増え、売上、収益は順調に回復して過去ピークに迫るところまできたのです。「新規お試し戦略」は大成功でした。

   顧客の立場で意見をくれたスタッフに大感謝です。売上低下は既存客の底上げ優先と思い込んでいた私の発想にしがみついていたなら、決して得られなかった好結果でした。経営者の先入観と言うものが、意外に発想を狭めていることもあります。戦略等を考える際には、勝手な先入観で物事を捉えないためにも、なるべく多く他人の意見を先入観抜きで聞くことが大切であると、身を以て実感させられた一件でありました。(大関暁夫)