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「採用で成績重視」なら日本の学生は勉強するのか? アメリカに学ぶべき3つの「双方向性」とは

   日本人留学生の友人が口をそろえるのが、「アメリカの大学の学生はとてもよく勉強する」ということです。これはデータ(参考 東洋経済2013年3月29日記事)にも表れていて、日本の大学生の85%が週10時間以下しか「授業に関連する学習時間」を取らないのに対し、アメリカの大学生の58%が「11時間以上」と答えています。

   この差が大学4年間、さらに修士課程・博士課程で積み上がったらどうなるかは自明でしょう。私も授業以外に、予習・グループスタディで最低週15時間は勉強していましたし、テスト・最終レポート前には週25時間以上になっていました。

成績を重視したら東大生はもっと勉強する?

双方向の議論を促すMBAの半円形の教室
双方向の議論を促すMBAの半円形の教室

   そこで最近語られるのが「企業が採用時に成績を重視したら学生がもっと勉強するのでは」という議論。確かにアメリカでは「いい成績を取らないと進級・卒業できない、いい会社に就職できない、アメリカのバカ高い学費のローンを返せない」といったサイクルがあります。

   しかし、例えば東京大学で「成績を重視したら勉強時間は増えるのか」と言われれば疑問です。私は理科一類に所属していましたが、最初の一年半の「教養課程」での平均点によって希望する学部・学科に進学できるかが決まる「進学振り分け制度」がありました。建築学科の必要点数は「80点」。優が80点以上、良が65点から79点でしたから、人気学科だったと言えるでしょう。

   すると学生はどう勉強するか?必修科目は最初のクラス分けによって自動的に決まるので仕方ないとして、いかに選択科目で平均点を上げるかが勝負になります。判断基準は二つ。「(出席を取るか、宿題はあるか等)授業の負荷は軽いか」「最終的に点数を取りやすいか」です。これについて各授業を分析した冊子もつくられていました。必修の授業では優秀で真面目な生徒のノートが「シケプリ(試験対策プリントの略)」としてテスト前に出回り、授業に出ていなくても試験を乗り切れる仕組みがありました。実際私も週10時間以下の勉強時間だったでしょう。

「知的好奇心を喚起する」仕組みを

   学生はルールに則ってやっているし、効率よく勉強したくなるのは当然です。何が言いたいかといえば、そもそも全く勉強しない大学生にハードルを設ける意味はあるが、「点数を取ることに長けている集団」に成績の重要性を説いても本質的な解決にはならない、ということです。アメリカの学生がよく勉強するのは、「成績を重視しているから」だけではなく、それ以上に「好奇心を刺激し、勉強に向かわせる仕組みがあるから」ではないでしょうか?今回は私がアメリカの大学で感じた、学生を勉強に向かわせる「3つの双方向性」について紹介します。

   ひとつめは、教授と学生の「双方向性」です。アメリカの大学では、「研究の質」だけでなく「授業の質」でも教授が競争にさらされています。学期末には、匿名によるオンラインの授業評価が全学で実施され、「教授はよく準備していたか」「テキストは良かったか」「きちんと学生に対応したか」「授業は期待を上回ったか」を調査します。結果は数年間に渡って公表されて、必修の授業で評価の低かった教授は翌年交替させられ、また、学生は過去の評価を参考に選択授業で何を取るかを決めます。そのため教授に、学生は「教え、評価する対象」にとどまらず「楽しませるべき顧客」だという意識が根づいています。例えば学期の半分が過ぎる頃になると学生に「中間フィードバック」を求め授業を軌道修正したりします。

   教室の形が異なる点も挙げておきたいと思います。教室は(写真)にあるように教授を180度取り囲む形になっています。これは予習を大前提として、授業は双方向な議論の場であることがはっきりしているからでしょう。こうした評価に直結した「双方向性」により、授業の質が磨かれていきます。無味乾燥になりがちな「統計」「会計」の授業が「いつやるの?今でしょ!」の林先生も顔負けのエンターテインメントになっているのには本当に感動しました。

グループスタディ、企業との関わりがモチベーションを高める

   ふたつめは、学生と学生の「双方向性」です。当然と言えば当然ですが、芸術家や小説家にでもならない限り、ビジネスでも研究でもチームワークが基本。カリキュラムにグループスタディが組み込まれていること、これが学生を勉強に駆り立てているのではないでしょうか。例えばチームで予習してクラスでプレゼンする、チームに数十ページに及ぶ最終レポートを課すことで「皆でがんばらないといい成績は取れない」という仕組みがあります。

   こうした話をすると「名前だけチームに入れてタダ乗りする人が出てくるのでは?」と聞かれます。人数が多くなるとサボる人が出てくることを「社会的手抜き(Social Loafing)」と言いますが、この問題は、チームでの学習内容を授業で尋ねることでメンバーの参加度を測る、あるいは匿名でチームメンバーの相互評価を行うことである程度解消します。

   最後は、大学と企業の「双方向性」です。本連載で触れてきたように、ミシガン大学MBAでは「机上の空論は役に立たない」という信念のもと、企業にコンサルティングしたり、CEOにプレゼンを行ったりする機会が豊富にあります。こうしたチャンスは学生にとって魅力的で、人気授業になりやすいです。プロジェクトでの活躍が認められて就職につながったという事例まで聞きます。

   他の学部でも同様の取り組みは随所に見られますが、企業はなぜこうした機会を歓迎するのでしょうか?それは企業と大学のWin Winな関係にあります。企業側にとってはアメリカのトップ校は最重要リクルーティング拠点で、そこで自社の名前を売ることが優秀な人材の確保につながります。また、MBAであれば最先端の経営ナレッジを外部から導入するきっかけともなります。一方、大学側はこうした企業に卒業生を送り込むことによって就職実績をつくることができ、教授は企業とのプロジェクトで名声を高められ、学生は学んだ知識を実践する機会が得られます。

   皆さんご存知のとおり、日本企業では新卒一括採用が主なリクルーティングの機会で、学生を教育するのは入社してからでいい、という文化がありました。そして、より優秀な学生を採用したい、企業と学生のマッチングを高めたい、という理由でインターンシップも一般的になったと感じます。しかしこれからは、国内外企業、NPO・NGO、国際機関、ベンチャー、さらには卒業後すぐ起業する人たちとの「グローバル採用競争」の時代。インターンよりさらに「上流」での交流、つまり大学と企業の「双方向性」がより求められるのではないでしょうか。

   いかがでしたでしょうか?大学生の「本質」を捉えた勉強を促す仕組みに関する議論が進むことを望みます。(室健)