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フィデル・カストロの死に思う 「とんでもない国」の行く末

   2016年11月25日、キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長が死去しました。1950年代、アメリカの傀儡だった政府をチェ・ゲバラとともに打倒するキューバ革命を起こし、その後約50年にわたり社会主義政権を率いてきたカストロ氏。

   その彼がつくったキューバという国は、他の社会主義国がどんどん資本主義になっていくなか、頑なに社会主義国であり続けた、とんでもない国でした。

  • キューバでは、クラシックカーが今なお現役
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街がボロい、物がない

   教育費、医療費が無料で、治安もものすごくよい。海岸線に美しいビーチが広がり、人々は夜な夜な、モヒートやキューバ・リブレといった酒を飲み、極上のキューバ音楽に酔いしれて過ごす......そんな楽園的な一面もあります。

   しかし、現地に行ってみると、それ以外の一面も見えてきます。

   まず、街がボロい。

   アメリカからの経済制裁を受けつづけており、あらゆるものに輸入制限がかけられています。そのため数十年前の建物だらけで、21世紀とはとても思えない景観が広がっています。

   自動車は、自国で生産できず、外から輸入もできないので、国交があった頃の1960年代のアメリカ車や1970年代のソ連車といったクラシックカーを修理しながら使っています。

   そして、物がない。

   ごくまれに中国から輸入されたコカ・コーラなんかがありますが、基本的にスーパーで売っている飲み物は国産のコーラもどき、スプライトもどき、オレンジジュースくらい。果物や野菜も数えるほどしか種類がありません。

   店で売っている電化製品は中古がほとんど。窓から見える家の中では、私が訪れた2008年でも、ファミコンのベースボールをやっていました。

「楽園」なのか「地獄」なのか

   こんな国なので、国民の中には「楽園」と捉える人も「地獄」と捉える人もいます。外で話を聞くとみんなポジティブなことを言うのですが、それは秘密警察が見張っていて、下手なことを言うと逮捕されるから。タクシーの中で運転手と話したりすると、「こんな国、一刻も早くどこかへ亡命したい!」という人さえいます。

   私は、世界一周旅行を経験したあと、「いちばん面白かった国はどこですか?」と聞かれたとき、迷わずこのキューバを挙げます。日本とあまりにもかけ離れた国。21世紀の世界でオンリーワンの国。

   それは、あまりにも違いすぎる世界である上に、その評価が当の国の中で真っ二つに割れていて、考えさせられることがあまりにも多いからです。

   2015年4月、ラウル・カストロ国家評議会議長とオバマ米大統領がパナマで歴史的な握手をし、キューバとアメリカは和解の方向に進みました。フィデル・カストロがつくったオンリーワンの国は、だんだんと「普通の国」に戻っていくでしょう。

   2016年は、世界の歴史的転換点となるような様々なことが起こりました。私の中では、フィデル・カストロ氏の死去が、あるひとつの時代の終わりを感じさせる、今年最も大きなエピソードだと感じています。(森山たつを)