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職務発明制度に関する特許制度を改正 05年4月から企業と社員の自主取り決めを尊重

 日本には特許に関して、独自の「職務発明制度」がある。これは、企業の従業員が職務上行った発明について、相当の対価を与えるという制度だ。

青色発光ダイオード(LED)。東京地方裁判所は、特許権譲渡の対価の一部として発明者に200億円を払うように日亜化学工業に命じた。
青色発光ダイオード(LED)。東京地方裁判所は、特許権譲渡の対価の一部として発明者に200億円を払うように日亜化学工業に命じた。

 従来はこの制度は従業員に有利で、巨額の賠償金を企業に支払うよう求めた判決もあった。しかし2005年4月に施行される改正特許法では新職務発明制度が導入される。企業と従業員が事前に決める「自主的な取り決め」という基準が尊重され、法の過剰な介入が排除されるなど、企業にも配慮がなされるのだ。
 職務発明の対価については、最近になって高額の賠償金支払いを命ずる判決が相次いだ。裁判所は日本最大の電機メーカー日立製作所と食品大手の味の素へそれぞれ1億円を超える賠償を命じた。発光ダイオード(LED)の日亜化学工業へは200億円もの賠償金を元従業員に支払うよう求める命令を判決を出し、世間を驚かせた。

現行の特許制度は日本独特

 こうした支払いの高額化の原因は、改正前の特許法35条にある。35条では特許権は発明者に帰属し、職務規則などにより発明者から企業への移転ができると規定した。そしてその見返りに発明者は企業に対し「相当の対価」を求める権利を認めたのである。
 この法律に基づいて多くの発明者が数多くの訴訟を提起した。知的財産に関する意識の高まりが、発明者を訴訟へと駆り立てたのだった。

 そして裁判所は法に基づいて「相当の対価」を認定し始めた。日本の大企業は職務発明に関する社内報奨制度を設けていたが、「相当の対価」はあくまで裁判所が決定することになっていた。

 諸外国の事情は、日本と異なっている。米国では多くの企業が、従業員の入社時に特許問題を含めた詳しい契約を交わし、発明が生まれた場合は所定の額を支給することが規定され、これが社会的に尊重されていた。

企業の訴訟リスクは完全になくならない?

 日本政府は状況打破のために法改正に乗り出し、国会で改正が決まった。「新職務発明制度」が目玉となる改正法のポイントは「透明性」だ。  「相当の対価」という概念は残されるものの、対価決定は基本的には裁判所ではなく、社内の規定に基づいて行われる。規定は企業が一方的に決めるのではなく、従業員の意見が十分に反映されるようにする。これは「自主的な取り決め」と呼ばれている。また、発明者への「自主的な取り決め」の開示も必要となる。今後は社内の「自主的な取り決め」で算定された額が、「相当の対価」となる。  ただ、「自主的な取り決め」が不合理である場合は、従来通り発明者が企業を相手取り、対価を請求する訴訟を提起できる。企業からは「どのようにすれば訴訟のリスクを減らせるかわかりにくい」という声もある。  このため政府は「新職務発明制度における手続事例集」というQ&A形式の文書を配布して対応している。