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メール時代にFaxがしぶとく生き残る 情報家電に弱い高齢社会を反映

   電子メールの時代を迎えてもう、ファックスの時代は終わりかというと、どうやら日本ではしぶとく残りそうである。
オフィス同士の文書のやりとりは、ほとんどメールで済むようになった。図面や画像の送信もデジタルのデータがあれば、これを添付することで解決する。あるいは適当なウエブページのアドレスを相手に知らせれば、わざわざ画像を送信する必要もない。ファクスを使う機会は、確実に減っている。 でも、「生き残る」理由はふたつある。
  第一に日本では家庭用ファクスの市場ができあがっており、買い換え需要が見込める。家庭用として電話機と一体化したファクスが低価格で売られており、むしろ単純な電話機の方が市場から淘汰されつつある。

多機能の機種の省スペース効果

日本では家庭用ファクシミリが今もよく売れている
日本では家庭用ファクシミリが今もよく売れている

  第二にオフィス向けとして、ファクスをコピー機やプリンターと一体化した複合機が市場に受け入れられつつある。複合機は各種の機器をバラバラにそろえるよりも安く、また省スペース・省エネルギーといった効果もある。欧米メーカーはファクスをほとんど作っていないだけに、こうした複合機を苦手にしている。逆に日本メーカーの主力商品はすでに複合機で、これを売り込むことで単機能のコピー機やプリンターから市場を奪おうとしているのである。業界の統計を見ると、ビジネスファクシミリの出荷金額は03年が約3500億円、04年の予測が4000億円と伸びる。デジタル革命が進む中で、アナログ機器であるファクスは意外に健闘しているのである。

  世界市場の大半を日本製品が握っているファクシミリは、もともと写真電送装置として発明された技術だ。それを今日のようにオフィスに欠かせない汎用的な通信機に育て上げたのは、キヤノンリコー松下グループ(パナソニック)など日本のメーカーである。
  日本メーカーがファクスを得意としているのは、漢字の文化を持つからだ。ファクスはかつて非常に高価で特殊な機器だった。アルファベットの文化圏である欧米諸国では、タイプライターを発展させたテレックスが広く使われる一方、ファクスはまるで普及しなかったといわれる。

日本には家庭用Faxの市場がある

ビジネス用の多機能ファクシミリ(リコー製)
ビジネス用の多機能ファクシミリ(リコー製)

  しかし漢字を使う日本の文書はテレックスでは送れない。そこに着目したメーカーは、日本の得意な量産技術を活用して低価格のファクスを売り出し、普及させることに成功したのである。ファクスが安くなると、画像が送信できるという機能が改めて評価されて欧米でも一般的に使われるようになった。つまり日本から世界に波及した機器なのである。ついに日本では、世界にも例のない家庭用ファクスの市場も誕生した。
 業界団体で市場動向を調査している日高淳雄さんは「高齢化社会で情報家電に弱い人は多く、テレビ番組での意見もファックスで募集されている。また、役所や企業での契約手続きも印刷物が大半で、ファックスはまだまだ必要だというのが複合機の需要につながっている」という。

   ファクスの世界市場の成長は止まり、緩やかな減少が始まっているのは事実だ。ファクス市場の縮小は日本メーカーの業績を直撃するだろうと、メーカー側も長期的にはそれを覚悟している。ただいまのところ、「ファクスは案外しぶとく生き残る」という見方が有力だ。