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食品

現状

消費者の信頼回復が最大課題

売上が好調なバラエティに富んだインスタント食品
売上が好調なバラエティに富んだインスタント食品

  米国でのBSE(狂牛病)、国内外における鳥インフルエンザの発生は、日本の消費者に「食の安全」がいかに脆いものであるかを再認識させた。食料供給の多くを外国に依存する日本の国民にとって避けて通れない問題だが、アジア諸国との自由貿易協定など、さらなる貿易自由化の流れの中で、日本の農産物市場の開放が進めば、国として、あるいは企業として食の安心・安全への管理能力が厳しく問われることになる。

 しかも日本国内では2002年から食品メーカーによる不祥事が相次いだ。雪印食品日本ハムは、BSE(狂牛病)問題で政府が国内の畜産農家を救済するために打ち出した国産牛肉の買い上げ制度を悪用して、安く購入した輸入牛肉を国産と称して高く国に売りつけるなど詐欺まがいの犯罪行為を働いた。また雪印食品の親会社であった雪印乳業は、ずさんな衛生管理から食中毒事件を引き起こした。他の食品メーカーや小売店でも、輸入した食品を国産品と偽ったり、産地を偽って販売するなどの偽装食品や不正表示の食品の事例が後を絶たない。 中国から輸入された冷凍ホウレン草などから基準値を超える残留農薬が検出され、中国産の農産物に対する信頼も損なわれる結果となっている。 日本の食品業界を取り仕切る農林水産省は、これまで生産者保護に重点を置いてきた。今回の食品不祥事をきっかけにして、世の中の論調は消費者保護にもっと注意を払うべきだとの意見が強まっている。日本の食品業界にとっては、消費者の信頼回復が大きな課題となっている。

歴史

食生活の洋風化にともなって発展

 日本の食品業界は、事業所、従業員数、市場規模の点で、いずれも全製造業の10%を占めるなど、製造業では機械工業に次ぐ大きな業界である。 しかし、業界の中身を見ると非常に多くの食品分類に分かれており、中小企業が非常に多いのが分かる。また歴史の古い伝統のある企業が多いのも食品業界の特徴だ。しょうゆの最大手でシェア3割を握るキッコーマンの設立は1917年、調味料国内最大手の味の素の設立は1925年、菓子業界の大手の一角を占める森永製菓の設立は1910年、ビールのシェア2位のキリンビールの設立は1907年のことである。まず家業としてしょうゆや菓子の製造を手がけたのが創業のきっかけであり、その後、日本経済の成長や日本人の食生活の改善や洋風化にともなって発展してきた。 したがって現在のいまになっても、依然、単品経営的な色彩が強く、欧米の食品メーカーに比べると国際化や多角化の点で見劣りがする。総合食品メーカーとして現在トップの味の素(創業はグルタミン酸ソーダという調味料)でさえも、売り上げはまだ100億㌦未満(1兆円強)。世界の食品大手であるネスレの売り上げ542億㌦、クラフト・フーズの売り上げ297億㌦、ユニリーバの売り上げ257億㌦など世界を代表する食品企業と比べれば、出遅れ観は否めない。

将来を展望するための3つのポイント

ポイント1
食品衛生の管理能力

  牛乳業界では食中毒事件をきっかけに雪印乳業が解体、雪印の牛乳部門は03年から農協系の全農全酪連系の2社と合併して日本ミルクコミュニティーという会社が新たに発足した。食品会社にとって安全管理の怠慢は致命傷となる危険性が高い。今後も同様の再編劇が繰り広げられる可能性がる。

ポイント2
ニーズ汲み取る開発力

  食品業界に限ったことではないが、消費者の食のニーズをいかに適切にタイミングよく汲み取り、それを製品化することができるかという製品開発力が重要である。トイレタリーの雄、花王は「エコナ」ブランドの食用油で見事に食品分野への参入を果たした。エコナというブランドで、健康志向の消費者ニーズをつかんだのが勝因だ。食品という画期的な新製品が出にくい業界では、消費者ニーズの察知というマーケティング力が大きな決め手となる。

ポイント3
海外への販売どこまで出来るか

  欧米やアジアにおいて日本食への関心がますます高まる中で、そうした追い風をいかに自分の側に引き付けることができるのかが勝敗の分かれ目となる。その点で注目されるのが、日本の伝統的な調味料であるしょうゆを国際的なブランドにまで押し上げたキッコーマン。しょうゆの連結ベースでの海外の売上高は2割だが、利益貢献ベースでは海外のしょうゆの販売は5割近くに達すると言われている。日本のカップ・ラーメンやビールを中国の消費者に売り込もうと日本のメーカーが必死になっている。日本の総人口は2010年頃をさかいに純減に転じるといわれている。日本市場のマイナス成長を尻目に、あらたな成長機会を求めて、日本の食品メーカーの輸出ドライブはますます拍車がかかることになろう。