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「敵はもうGMではない、現代だ」トヨタの本音

   トヨタ自動車が06年、世界最大の自動車メーカー、米ゼネラル・モーターズ(GM)を、生産・販売台数で抜く可能性が高まっている。販売不振のGMは来年中に米国内の完成車工場をいくつか閉鎖するためだ。ただ、米国のシンボルでもある自動車産業で、そのフラッグシップ的存在のGMを追い越すとなると、アメリカの反発が予想されるだけに、トヨタは当惑している。その一方で、「敵はもうGMではない、現代だ」という声が社内に上がっている。

2003年にGMがトヨタの申し出をける

   最近のGMの不振にトヨタは神経を尖らせている。トヨタはここ20年ほど、GMとは常に「協調」を意識し、演出してきた。トヨタがGMと1984年、米国カリフォルニア州に合弁会社「NUMMI」を設立したのも、GMさえ抑えておけば将来起きかねないトヨタ批判もかわせる、という狙いがこめられていた。ここ数年でいえば、トヨタはガソリンと電気を燃料にするハイブリッド車や、燃料電池車についても、GMと共同で研究・開発することに前向きだった。
   しかし、GMはハイブリッド車について、2003年に独自に製品開発を進めていく方針を選択した。この結果、日産などのライバル社がトヨタから技術を導入して、ハイブリッド車の開発をスピードアップしているのに比べ、GMは完全に出遅れた。トヨタの幹部は「GM技術陣は、独自開発にこだわるあまり、こちらの申し入れをけった。面子というか、GMの官僚化も救いがたい」との感想を漏らす。
   それでも、奥田碩トヨタ自動車会長は05年5月の記者会見で、経営不振に陥っているGMに対し、「技術提携できるのなら、例えばトヨタのハイブリッドといった技術を供与するのも一つの方策だ」と述べ、GMの支援にこだわる考えを示した。

富士重系列化もトヨタによるGMの救済策

   トヨタ自動車は05年10月、国内中堅自動車メーカーの富士重工業に資本参加することで合意した。富士重はGMとの資本・業務提携を解消、GMが保有する富士重株のうち、発行済み株式数の8.7%に当る6800万株を354億円でトヨタに譲渡。残る11.7%分の保有株は市場で売却して富士重がこれを買い入れる。GMの傘下から事実上、トヨタグループに「籍」を移す格好だ。富士重の企業価値は「技術力の高さと独創性にある」とされ、それにトヨタが注目した、といわれるが、最大の目的は、トヨタによる、資金繰りに苦しむGMの救済だと日本では見られている。
   競争相手としてのGMの影が薄くなるにつれ、ライバルとして急浮上してきたのが現代自動車だ。2005年の1-9月の世界販売は前年同期比11%増の約180万台。年間ベースだと200数十万台となる計算だ。日本の三菱自動車の販売台数を上回っている。ホンダの2005年の世界販売の見込みが約340万台。日本メーカーの背中が見え始め、抜き去りにかかろうというところだろう。

中国国内における乗用車シェア(1月~8月)

   1-9月の海外生産も前年期比44.7%増の約45万台と好調だ。成長が著しい中国の自動車市場では、2000年のシェアは、韓国系はゼロに近かった。しかし、2004年のシェアを見ると、欧州系が大きく落として31.3%、米国系と日本系はともに伸びて、12.9%と28.2%だった。現代自動車を中心に韓国系も中国市場に食い込み始め、8.3%。2005年の1-8月のシェアを見ても、欧州系20.6%、米国系12.9%、日本系29.7%、韓国系11.5%。1-10月はさらにシェアを伸ばし、韓国系の勢いは加速している。現代は、中国だけに限らず、北米でも事業を強化し、グローバル展開を目指している。

自前の部品メーカーを抱えている点がホンダより脅威だ

   現代は1980年代後半、北米に進出し、「ポニー」という小型車で一時ブームを起こした。しかし、さびの発生など品質面で問題があり、結局撤退した。この失敗を教訓に、「日本車を追い越す」という錦の御旗のもと、品質を最重要課題として取り組んできた。その結果、「現代は日本車のライバルになりつつある」というのがトヨタの結論だ。一番恐れているのは価格。例えば、最上級モデル「アゼラ」(Hyundai Azera)はV型6気筒・排気量3800ccの大型セダン。独メルセデス・ベンツSクラスや独BMW7シリーズより広い室内空間と充実した安全装備などを売り物にする一方、価格は3万ドル以下。トヨタ自動車「レクサス」やホンダ「アキュラ」といった高級車ブランドの最低価格帯は3万ドル前後で、この分野に食い込む可能性は十分ある。
   トヨタは世界中の車を徹底的に分解して調べているが、これまで「敵」はベンツやホンダだった。現代はこのところ耐久性やエレクトロニクスを活用した先進性、デザインといった面で、急速に性能を上げつつある。しかも、性能の割に圧倒的に安い。
   もうひとつ、トヨタが警戒しているのは、現代が自前の部品メーカーを抱えている点だ。例えば、ホンダは系列の部品メーカーは持たず、トヨタ系のメーカーを中心に調達している。トヨタ系の部品メーカーがホンダと組んでまったく新しい自動車を開発する、といった可能性は考えられない。逆の意味で現代は怖い、というわけだ。