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「3利源」開示めぐり
生保業界は疑心暗鬼

   生命保険の儲けを示す「3利源」を開示するかどうかをめぐり、生命保険業界が混乱している。明治安田生命に加えて、大手の第一生命が突如「開示派」に転向、「スタンドプレーだ」などと批判を浴びている。

3利源「開示派」に転向した第一生命。業界各社はどうするのか
3利源「開示派」に転向した第一生命。業界各社はどうするのか

   問題の火付け役になったのが明治安田生命。2006年3月末、突然、経営の透明性確保を理由に05年3月期決算からこれまで秘匿にしていた3利源を開示すると打ち上げ、生保業界をあわてさせた。というのも「3利源」開示は生保の商品原価を明らかにすることと等しく、儲け過ぎ批判につながりかねず、日銀記者クラブからの開示要求にも拒否を貫いてきた。

不祥事の挽回と行政処分の早期解除をねらった奇策?

   もっとも明治安田生命は保険金不払い問題で業務停止処分を受け、新商品が認可されないなど行政処分は現在も解けていない。そのため「3利源開示は不祥事の挽回策と行政処分の早期解除をねらった奇策」と業界は判断し、黙殺することにした。
   ところが今度は大手生保の一角を占める第一生命が06年5月9日、前触れもなく3利源開示に方向転換し、再び生保業界は困惑した。第一生命の斎藤勝利社長が7月末に生命保険協会長に就任することが内定しており、「次期協会長会社の権威をかさに着たスタンドプレーだ」などと豹変ぶりに他の生保は批判を浴びせた。
   国内主要生保は5月29日、一斉に決算発表を迎える。それを前に17日にT&Dグループ3社が先行して決算を公表した。いち早く相互会社から株式会社に転換し、情報開示に前向きな生保だけに状況によっては一挙に開示に踏み切るのでは、と注目が集まったが、結局開示は見送った。

保険料を余分にとり、さじ加減で還元する仕組み

   「3利源」とは生命保険会社の利益の源泉を表す指標で、契約者に約束した利回りと実際の運用の差を示す利差益、予定した営業費用と実際にかかった費用の差を示す費差益、そして予定死亡率と実際の死亡率の差から生まれる死差益の3つの要素からなる。言い換えれば生保商品はリスクを高く見積もり、契約者から保険料を余分にとっておき、差額をさじ加減で配当として契約者に還元する仕組みになっている。
   これが明るみに出てしまうと、儲けすぎだ、という批判を誘発しかねない。だから、業界は開示には慎重なのだ。
   最近では、予定利率よりも実際の運用が下回り「逆ざや」状態にある。現在はこの逆ざや額と3利源を合算した金額である「基礎利益」を開示しているだけで、死差益と費差益の個別開示を頑なに拒んでいる。「配当圧力につながりかねない」「配当は基礎利益だけでは決まらない。基礎利益の詳細開示はかえって誤解を招きかねない」などいう理由からだ。
   注目されたT&Dの決算発表で、T&Dホールディングスの池田邦雄代表取締役専務取締役は「現在のところT&Dグループは3利源を開示する予定はない」と明言した。それでも業界内には「最大手の日本生命も開示に踏み切る準備をしているようだ」などと疑心暗鬼になっている。