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陰る成長神話 楽天・三木谷の正念場

   楽天の株価が2006年8月30日の株式市場で一時ストップ安となった。翌31日には週刊新潮に「三木谷社長のXデー」(9月7日号)という記事が掲載された。捜査が進んでいるという内容だが、楽天はこれを否定し、「法的措置を講じる予定だ」とした。ただ、楽天の「成長神話」にかげりが見え、市場の評価は日増しに険しくなっている。

   「数年内に経常利益1,000億円を突破する」――。楽天の三木谷浩史社長は8月18日の06年第2四半期(4~6月)決算発表で強気の展望を示した。

ミクシィやアマゾンに追い上げられる

楽天の「成長神話」は続くのか
楽天の「成長神話」は続くのか

   しかし、JPモルガン証券は楽天の決算を受けて投資評価を「中立」から「売り」に変更した。

   「4~6月期決算で前四半期比23%の営業減益になったのはネガティブ・サプライズ。楽天はネットモールとしての先行者メリットの剥落が顕著になっているうえ、信販会社の楽天KCやアフェリエイト広告のリンクシェアの買収も収益効果が想定ほどでなく、逆にバランスシート面での懸念が生じている」。目標株価も従来の6万6,000円から5万4,000円に大幅に引き下げた。

   この記者会見で三木谷社長は営業減益の理由を「採用人員の増加や顧客のポイント利用が増えたため」と説明。あくまで先行投資によるもので、成長ストーリーは崩れていないと強調した。しかし、創立から来年で10年を迎える楽天について、市場では「検索エンジン型のリスティング広告などの発達で、従来の『楽天市場が最も品揃えが良く、EC(電子商取引)ができる』との顧客や出店事業者への求心力が薄れてきている」(JPモルガン証券)などと厳しく評価。

   楽天市場からの退店数の増加や顧客一人当たりの購入単価の下落などもあり、楽天のブランド力や成長力に陰りが出始めているとの見方が広がっている。従来からライバル関係にあったヤフーだけでなく、「Amazon Japan」のネット商店街事業への本格参入や、ネットの次世代潮流の「ウェブ2.0」を代表するミクシィなどSNS勢のショッピングモール化など楽天市場を切り崩そうとする動きも厳しい見方を増幅させている。実際、楽天の株価は7月には一時、5万円を割り込み、年初から半値以下まで急落。8月30日の終値は5万3,700円だった。

TBS株、損切りしても資金を早く回収しろ、の声

   また、これまで収益の下支えとなってきた楽天証券も手数料引き下げ競争などの煽りで前四半期比では明らかに収益の伸びにブレーキが掛かっている。さらに、みずほコーポレート銀行のあっせんで05年6月に買収した国内信販を衣替えした「楽天KC」については、自動車ローン事業などクレジット部門を分離し、オリエントコーポレーションに売却すると発表したが、この際、売却益が出るどころか、「オリコに引き取ってもらう前提となるKCの不良債権処理で売り手の楽天は新たな損失穴埋め負担を強いられる懸念がある」(業界筋)とも指摘されている。

   三木谷社長の肝いりで1,000億円以上の資金を投じて進めたTBS株の大量取得(発行済み株式の19%超)も当初の目論見の経営統合どころか、業務提携さえ困難な状況で経営の重石になっている。金利の上昇傾向もあり、市場からは「損切りをしても資金を早く回収し、本業の強化などに有効活用すべきだ」との批判も強いが、「TBS株で100億円単位の売却損を出したうえ、何の実も取らなければ、三木谷社長の経営責任問題が浮上する」(関係筋)ため、動くに動けない状態が続いている。三木谷社長は「ソフトバンクSBIと資本関係を解消し、インターネット財閥企業は楽天だけだ」と豪語するが、市場の成長期待を取り戻すには、TBS問題も含めて本業強化に回帰する厳しい決断が迫られているといえそうだ。