J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

ライブドア・平松庚三代表取締役社長インタビュー

※この記事は、「ライブドア07年初め 営業黒字目指す」の詳報です。

――就任後に、「内部の膿を出し尽くす」と言っていましたね。

「そんなこと言ってましたか?これまでの自分のキャリアとしては、外資系の『「雇われ社長』が多いんです。ガバナンスもコンプライアンスも、常識として、言葉として知っていただけで、勉強もし、考えもしたのは、本当にここ半年ですね」
J-CASTニュースのインタビューに応じる平松社長
J-CASTニュースのインタビューに応じる平松社長

――ライブドアの再建に不可欠なのはコンプライアンスです。そのためのコンプライアンス強化委員会と、外部調査委員会。いつごろから、どんなことをおやりになったかを聞かせて下さい。

「非常に早い時期にやりました。まず、『なんでこんな事件が起きたのか』を考えました。良い悪いは別にして、普通の会社で育ってきたので、『義務教育』は受けている。ですが、ベンチャーでは、東大を出たりMBA(経営学修士)を持っていたりしても、義務教育とのバランスが取れていない人が往々にしている訳です。ライブドアが、非常にその良い例。出来て10年ぐらいで、いきなりベンチャーが大きくなって、(時価総額が)1,000億円になって、何千人の社員がいて、10万人20万人の株主がいて…。これは、りっぱな『大企業』ですよね」

図体は大きくなったが、「中」は、10年間全く変わらなかった

――そうですね。

「そうすると、好む好まざるに関わらず、今の言葉で言うとCSR(企業の社会的責任)が求められるようになってきます。世間は我々のことを『大企業』と見ているんです。図体は大きくなった。ですが、『中』は、10年間全く変わらなかった。変わってはいけないところもありますが、変わらないといけないところもある。その世間が見る『大きな企業体』と、自分たちの中に持っているものの認識の乖離が、一番大きいと思います」

――具体的には、ガバナンスやコンプライアンスの面で、どんなことをしていますか。

「まず、何もなかった。僕も、ガバナンスとコンプライアンスは、知識としてしか知らなかった。そういう状況なので、コンプライアンスの分野で権威のある先生を紹介していただいたんです。麗澤大学の梅田徹先生です。ライブドアの役員になったときに、梅田先生にご相談して、『コンプライアンス強化委員会』をつくって、先生を顧問に、ということになったんです。社内の各部門からの代表者約20人を含めて、先生の指導のもとで委員会をつくりました。そこを中心にして、経営理念、倫理綱領、行動規範などもつくりました。作るのも大変だったんですけれども、梅田先生からは『作るのは労力の10%ぐらいだけれども、運用が大変』と言われました。その一環として、全社員に、30人ぐらいにわけて説明会・セミナーを開いています。これは、継続的にやっていく必要があります。9月の第2週には全社員のキックオフ『07年度ミーティング』で、年に1度の3時間のプレゼンテーションを行います。2時間は今後の事業説明をして、3時間のうち1時間は、全社員同時にコンプライアンスの勉強をしよう、ということになっています」

法律守るのは当たり前で、社内規定や決まりを大事にすることが重要

――具体的には、コンプライアンスでは、どういうところに重点を置こうとしていますか。

「人から聞いて目から鱗が落ちたのは、『コンプライアンス』という言葉は『法令遵守』と訳されるけれども、これは違うのではないか、ということです。法律を守るのは当たり前で、社内規定や社内の決まりを大事にすることが重要、ということです」

――「内部通報制度」があるそうですね。

「『内部監査室』というのを作りました。セクハラなどに対応するためです。一番大事なのは、『通報した人に害が及ばない』ということですね」

――結構難しいところですよね。

「ですから、外部に委託しました」

――通報する相手が外部、ということですね。これは、会社ですか。個人ですか。

「会社です。そういう会社があるんです。私も知りませんでした。社員に安心感を持ってもらえていますね。第1回目の聞き取り調査では『非常に客観的にものを見てもらえる』、という反応でした。その後に、しかるべきところに連絡がいく。なかなか当事者や直属の上司には伝わらないようになっています」

「内部通報制度」、すでに成果をあげている

――その会社から内部監査室に連絡がいく、ということですね。

「非常に、社員に安心感を与えています。告発制度は非常に重要なんですが、運用を一歩間違えると、『背中からコノヤロウ、と刺される』のようなことになりかねません。ですから、フェアネスというところに主眼をおいています」

――具体的には、通報はあったんですか?

「ええ、もう何件かありました。その結果、成果も上がっています。先日、弊社からも1,500人分のお客様の名前が漏れてしまって、これは自分たちの方で気がついたんです。直ちにこれを公表しました」

――取り組みは、反映されている、ということですね。

「それはありますね。このビルでも、(関連会社の)弥生あわせて700-800人の所帯になっていますから、きちんと仕組みを作っておかないといけません。昔みたいに10-15人で『ガンバロウ』とやっていたようなやり方では、もうコントロールできないんです」

――今のお話以外で、内部統制・コンプライアンス関係でおやりになったことはありますか?

「始めたばかりなんですけれども、一番やらないといけないのは『意識改革』ですね。勉強しろ、知識をつけろということではなくて、まずは意識を変える」

一番大事なのは意識改革ですね

――今後も意識改革は引き続いてやる、ということですね。

「弥生も、日本の会社になったときに、オンブズマン制度をつくりました。そこで、パワハラ・セクハラ全部引き受ける、という仕組みでした。一番は意識改革ですね。火災の避難訓練のように、年に2回やりたい」

――平松さんが、これだけの取り組みをなさって、なおかつ意識改革が必要だということは、法律だけではなくて、商売のやり方に不安を感じているということですか。

「これは『やりすぎる』ということはないと思っています。コンプライアンスというのは、自分たちの決まりを守る、と聞いたときに『なるほど』と思いました」

――なにか、平松さんの取り組みを表す「標語」のようなものはありますか。

「特に標語、ということではないんですが、ふたつのことをずっと言っているんです。ひとつは、今は赤字で『真っ赤っか』なビジネスの姿を元にもどす、ということ。次に、社会からの信頼を回復する、ということです。『社会からの信頼回復』の中にコンプライアンスが含まれるわけです。日頃の行動に、コンプライアンスが表れているか、ということが大事だと思います。ただ、1つだけは絶対避けたいことがあります。『コンプライアンスも、ガバナンスも完璧です』となっても『でも、赤字』ということは避けたいですね」

キーワードは「世間、株主に対して合理的な説明ができるか」

――ガバナンスの面はどうですか。

「6月14日以降、ガバナンスのチームは全員変わった訳です。監査役3人、取締役6人、取締役のうち半分が社外です。ソニーの法務部長だった真崎晃郎(まさき・てるお)さんに来てもらったことが大きかったです。真崎さんは、『ミスター・コンプライアンス』と呼ばれていた方です。取締役会のキーワードとして『これで説明つくかな』ということがあります。世間、株主に対して合理的な説明ができるか、ということです。6月以降、この文化が会社中に『伝染』してきているんです。良いことだと思います」

――ガバナンスは浸透してきているが、引き続きやらないといけない、ということですね。

「そうですね。非常に大きなチャレンジですね。『のど元過ぎれば…』というのは、とんでもないですね。ここを外して、ライブドアの再生はありませんね」

――ところで、経営再建の実態はどうですか。

「ご覧のとおり、単独では『真っ赤っか』ですよね。問題が2つあります。1つめは、監査法人の意見表明がなかった、ということです。監査を担当した港陽監査法人が解散したり、『中央青山騒動』などがあって、今期に限っては、どこも監査の引き受け手が無かった。ただ、今はライブドアは未上場なので、本来は決算の発表をする必要はないのですが、決算発表の日に、これからも透明性を保つために、決算はこれまで通り開示する、と約束しました。2つめの問題としては、今回は第3四半期の決算を発表しましたが、第4四半期で、どれくらいの赤字が出るか予想するのが非常に難しい、ということです。色々と特損を出したりしないといけないですし」

――特損というのは、金融事業のことですか。

「それ以外にもあります。事業を売却する際に、損失を計上しないといけないこともあります。今は、手を広げすぎたビジネスを、コアな部分に集中する、ということをやっています。ノン・コアな部分は売却するか、やめる、ということなります」

ライブドアの市民記者制度は「間違っていなかった」

――本体事業の問題は、外から見ていると、広告にあるように見えますが、いかがですか。

「広告は、事件前と事件後では半分以下。一番大きなところです。6月14日に新体制になってから、底は打ったものの、V字回復はしていないです。来年についても、数値目標は立っていない状況です。ただ、来年の早い時期に、(営業利益ベースで)単月黒字を達成したいと思っているんです」

――営業利益が出る、ということは、健康状態としては悪くない、ということになりますからね。

「そうですね。広告については、商品や、サービスの広告はまだ良くても、ブランド・ビルディングの広告になると、『いかがものか』といわれてしまいます」

――これをどう解決出来るかが、「来年の単月黒字」に大きく関わってきますよね。

「そうです。まさに、そこなんです。ただ、ポータルとしての中身については、オーマイニュースがスタートしたのを見て、うちがやって来たこと(PJニュース)は間違っていなかった、と思いました。ヤフーの先陣を切る、なんてことは滅多にないことです。ブログの利用者数でも170万あり、一番多いです。コンテンツの量では勝てませんが、ユニークさ、CGM(消費者が作成するコンテンツ)の分野では負けないですね。『追いつけヤフー、追い越せヤフー』というのは、もう止めました。ただ、CGMも難しい部分があって、品質のコントロールが難しいんです。インターネットは凶器になりうる。良いものだけが発信されるとは限らないですから」

ファイナンス関連の「メディア事業」は続けたい

――金融部門については、どのようにお考えですか。

「会社自体も刑事裁判の被告になっています。99%有罪になるでしょう。有罪になれば、金融相から認可を受けている事業の80%以上のオーナーシップを手放さないといけないことは分かっています。約1名以外は、旧経営陣も起訴事実を認めていますし、我々も争わない、ということを表明しています。危機管理の面からすれば、そういう危機がある、ということは認識しています」

――売却するしかない、ということですよね。

「そうです。ただ、売却した後でも、ファイナンス関連のポータルのメディア事業のコンテンツとしては、やっていきたいと思っています」

――法人事業についてはいかがでしょうか。

「特に弥生が利益率40%を誇っていますし、ネットワーク事業部にも、客離れが終わって、やっとお客様が戻ってくるようになりました。メディア、法人事業、ファイナンスという3つのコアの形は変わりません。ファイナンス関連は外に出てしまいますが、メディアのコンテンツとして活用を続けます」

――キャッシュフローとしての話、賠償のお話についてはいかがでしょう。

「670-680億あります。無借金です。賠償については、法人・個人を含めて、2,000人近い人から、500億円近い請求をされています」

損害賠償問題は説明がちゃんとできる解決をしたい

――和解することはあるんですか。

「法律というか、司法の場で和解をしなさい、ということであれば応じます。全く別の問題として、フジテレビから350億円弱請求されています。まだ話し合いは行っていません。両方の株主のために、説明責任を果たすことが大事で、裁判所による和解勧告がないかぎり、こちらから和解を申し出るようなことはありません。払わないと言うことではないですが、ガバナンスの問題です。説明がちゃんとできる解決をしたいです」

――キャッシュフローがあるうちに単月黒字になる、ということですね。

「そうですね。大変な7ヶ月でしたが、経営が破綻している訳ではないんです。経営に一番大切な、カネと人というリソースはある。その意味でラッキーでした。それに、某鉄道会社や化粧品会社みたいに、何年にもわたって(不正を)やっていた、ということではありませんでした。今、振り子が思いっきり反対に振られていますが、それは受け入れないといけません」

――営業で黒字になれば、賠償はあっても、少なくとも企業としては続けられる、ということですね。

「単月黒字を、どのくらいの期間で来期出せるか、というのが大変大きなチャレンジですね」

――最近は、堀江さんは何か言って来たりしますか。

「言っちゃいけないんです。コンタクトも出来ないんです。保釈を取り消されてしまいますから。株主総会の前に弁護士を通じて、議案に対してコメントをもらったのが6月の頭ですね」