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不正の「温床」 損保特約見直し

   保険金不払いが続出した損害保険業界で、不祥事の原因のひとつとなった「特約」を見直す動きが広がっている。し烈な営業競争の過程で特約を増やし過ぎ、複雑になった保険金の支払いに対応できなくなったためだ。

   あいおい損害保険は、自動車保険の特約6種類の販売を2006年10月から停止する。事故相手を見舞う際の手土産代など不払いを招いた特約を排除し、再発防止につなげる狙いだ。

営業の常套手段として、業界全体に広がった

写真中央が損保ジャパン本社。損保業界では「特約」を見直す動き広がる
写真中央が損保ジャパン本社。損保業界では「特約」を見直す動き広がる

   日本興亜損害保険は主力の自動車保険を全面的に刷新し、06年9月から「カーBOX」の商品名で売り出した。利用者アンケートの結果、「必要ない」との声が多かった特約を削った結果、従来45種類あった特約は24に減った。
   業界トップの東京海上日動火災保険も特約の半減を目指し準備中。ニッセイ同和損保など他の大手も追随する構えをみせている。

   特約とは、保険の主契約に追加できる「オプション」のこと。組み合わせによって補償範囲を広げたり、保険料を分割払いにするなど契約内容の変更ができる。その数が急増したのは98年の保険料率自由化以降。激しい顧客獲得競争を繰り広げる損保各社にとって、開発が容易な特約は格好の宣伝材料だった。
   大手損保幹部はJ-CASTニュースに対し「『業界初』と銘打ってPRすれば、確実に契約が伸びた。営業の常套手段として、瞬く間に業界全体に広がった」と打ち明ける。主契約と特約の組み合わせは「あまりに多く、総数がどのくらいあるか、職員ですら把握できない」ほどだという。
   一方で、支払いシステムの開発はおざなりにされ、そのツケが26社で計18万件、84億円(05年秋時点)という保険金不払いとして表面化した。

特約開発合戦のしわ寄せを受けた契約者

   (1)自分がどの特約に入っているか気付かず、請求し忘れたために十分な保険金を受け取れなかった(2)一般の傷害保険とほとんど同じ内容の自動車保険特約を勧められ、結果として保険料の二重払いを強いられた−−。こんな事例も少なくないといい、契約者が特約開発合戦のしわ寄せを受けている格好だ。

   金融庁は06年8月、損保各社に不払いの実態を調べ、9月末までに同庁に報告するよう指示した。損害保険ジャパン三井住友海上火災保険で新たな不払いが発覚し、一部業務停止命令を受ける事態に発展したためだ。他社でも状況は似たり寄ったりといわれ、不払い総額は業界全体で100億円を超える可能性もある。
   そうなれば、さらに深刻な損保不振を招くのは確実だ。遅ればせながら始まった特約削減の動きには、こうした事態に「予防線」を張り、顧客重視への回帰の姿勢をアピールする意味もあるようだ。