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過去の経緯を熟知しない マスコミが飛びついたニュース

   東京証券取引所ニューヨーク証券取引所(NYSE)ロンドン証券取引所(LSE)など、欧米の主要取引所と業務・資本提携の協議を始めたとする報道が2006年10月末から相次いでいる。NYSEが東証に相互の株式を5~10%程度持ち合うよう打診するなど、海外市場との資本提携の交渉が明るみに出たのは初めてだ。だが、東証とNYSEは00年2月に「包括的相互協力協定(MOU)」を締結済みで、資本提携の交渉も、06年3月から行われるなど、関係者の間では”周知の事実”。東証内部では「なぜこのタイミングでマスコミが騒ぐのか」といぶかる声も出ている。

NYSEとの協議が最も進展している

NYSEとの提携交渉は関係者には「周知の事実」
NYSEとの提携交渉は関係者には「周知の事実」

   同協定は業務提携を中心に資本提携を含む幅広い協議をするのが目的。東証は00年のNYSEを皮切りに、欧米ではユーロネクスト、メキシコ証券取引所、イタリア証券取引所とも同協定を結んでいる。アジア・太平洋地域では、韓国、上海、台湾はじめ、タイ、フィリピン、シンガポール、オーストラリア、ジャカルタなど10カ所の取引所と協定を締結済みだ。

   これらの中で、NYSEとの協議が最も進展しているのは事実。欧米では米ナスダックが06年5月までにロンドン証券取引所を買収、NYSEとユーロネクストは6月に統合するなど、海外市場の再編が加速している。東証は世界の市場再編で生き残るには「まずアジアの拠点取引所となることが必要」と考えており、再編の主導権を握る世界最大のNYSEとは、なんとか友好関係を築き、主張すべきものは主張して、米国主導の再編の波に飲み込まれないよう努力している。

現時点で、提携の実態は「情報交換」の域を出ていない

   事実、東証の西室泰三社長は機会あるたびにNYSEのジョン・セイン最高経営責任者(CEO)と会談している。今回の報道のきっかけは、10月にブラジルのサンパウロであった世界取引所連合(WFE)の年次総会で、西室社長がセイン氏はじめ各国取引所の首脳といっしょになり、「そこでいろんなCEOの方々とお話するチャンスがあった」(西室社長)と語ったのが発端だ。西室社長は総会終了後にニューヨークに立ち寄り、セイン氏と再度、会談し、その席で株式持ち合いの話を持ちかけられたという。

   一連の報道では、ロンドン証取、ユーロネクスト、ドイツ証取とも「業務提携を協議」と伝えられたが、いずれも西室社長が7月に欧州を訪れ、「3証取のCEOと直接対話した」という事実に基づいている。現時点で実態は「情報交換」の域を出ていないようだが、再編推進派の西室社長が「さらに一歩進んだ提携関係もありうる。相手方も非常に興味をもって聞いてくれた」などと語ったことから、過去の経緯を熟知しないマスコミが「提携協議が始まった」と飛びついたのが真相のようだ。