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雑誌にコメントしたライター 5,000万円賠償請求される

   雑誌「サイゾー」に掲載された『オリコンのランキングの信憑性』のコメントが、名誉棄損にあたるとし、オリコンは、5,000万円の損害賠償を求める訴訟を2006年12月12日に東京地裁に起こした。訴えられたのはコメントしたライター一人だけ。ライターは訴訟準備をすべて一人でしなければならず、弁護士を雇うだけでも多額の着手金がかかる。「生活できなくなる心配がある。助けてください」などとホームページで訴えている。

   訴えているのは、ヒットチャートなど音楽情報提供会社のオリコン。きっかけになったのは、月刊誌「サイゾー」06年4月号の記事「ジャニーズは超VIP待遇!?事務所とオリコンの蜜月関係」。フリーライターの烏賀陽うがや弘道さんが「サイゾー」からの電話取材に応じた20行ほどのコメントだ。

「事実誤認で、オリコンの事業に多大な影響を与える」

   「オリコンは調査方法をほとんど明らかにしていない」「オリコンは予約枚数をもカウントに入れている」などの部分が事実誤認で、オリコンの事業に多大な影響を与えることにもなりかねないと、5,000万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。こうしたトラブルの場合、記事を掲載した出版社と執筆者の両方を訴えるのが通例だが、オリコンが訴えたのは烏賀陽さん一人だ。

   オリコンIR担当はJ-CASTニュースの取材に答え、訴えたのが烏賀陽さん一人だけの理由を、烏賀陽さんから受け取ったFAXに「烏賀陽さん自身が責任をもって行った、と明言している」ことから、雑誌社への責任は問わなかったのだという。
   さらに、訴状を見ると、名誉回復処分と謝罪広告を合わせた損害請求額は5,000万円だ。なぜこんなに高いのか。オリコンIR担当は、

「賠償金が欲しいというのではなく、これ以上の事実誤認の情報が流れないように(多額の賠償金を課すことで)抑制力を発揮させたい」

と話す。

   実は、オリコンと烏賀陽さんのトラブルは「サイゾー」が初めてではない。「AERA」03年2月3日号の記事「オリコン独占去った後チャートはどう読む?」でも烏賀陽さんはオリコンのデータの信憑性に疑問を投げかける記事を書いている。オリコンは今回の訴訟によって、決着をつけたいという考えらしい。

「言論・表現の自由という基本的人権を蹂躙している」

烏賀陽さんはウェブサイトで、今回の提訴を「言論の自由へのテロ」だと訴える
烏賀陽さんはウェブサイトで、今回の提訴を「言論の自由へのテロ」だと訴える

   訴えられた烏賀陽さんは、J-CASTニュースに対し、記事や発言は全て綿密な取材を基にしウラも取っていると話し、

「今回の件は音楽業界だけの話にとどまらない。意見が異なる1人に対し高額な賠償金を翳して襲い掛かる恫喝訴訟であり、言論・表現の自由という基本的人権を蹂躙しているからです」

と憤る。突然に訴状が送られてきて、何が真実なのかお互いに検証する「議論」も交わせなかったというのだ。
   マスコミ関連の訴訟に詳しい紀藤正樹弁護士はJ-CASTニュースの取材に対し、こうしたネタ元・記事を書いた「個人」に対する高額訴訟がここに来て増えているのだという。90年代までは報道を名誉棄損で訴える場合、100万円から200万円、高くて300万円くらいの賠償金で出版社と執筆者などをセットで訴えていた。しかし効果がなく、賠償金が1,000万円と高額になってもさほど変わらなかった。

「そこで02、03年ころから企業の新しい戦略として出てきたのがメディアにリークしたネタ元や、コメントをした人、記事を書いた人だけ訴える方法です。水道で言えば蛇口部分を締めることによって、情報の流出を止めようとするわけです」

   出版社などと切り離された「個人」は弱い。ネタ元や執筆者はそれで萎縮し、企業に都合の悪い情報が出にくくなる心配もある。紀藤弁護士はこういう訴訟が増え続けると報道、そして、自由な言論の機会が脅かされる危険がある、としている。