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海外で日本の番組が見られる 便利なサービス訴えたテレビ局完敗

   海外にいながらにして日本のテレビ番組をインターネット経由で視聴できる「まねきTV」というサービスがある。海外在住者にとってはありがたいサービスだが、「著作隣接権」の侵害だとしてNHKと在京キー局は足並みをそろえて、運営会社を相手取ってサービス中止の仮処分を求める申し立てを裁判所に行った。

   東京地裁は2006年8月に申立を却下。テレビ局はさらに抗告したが、知財高裁は12月22日、やはりテレビ局の主張を退ける決定を下した。テレビ局は「最高裁で争う」としているが、運営会社は「もう無駄な裁判はやめてほしい」と訴えている。

「まねきTV」をマネされるとテレビ局に打撃

「まねきTV」のシステム構成
「まねきTV」のシステム構成

   永野商店という会社が運営する「まねきTV」は、自宅以外の場所でもテレビを見られるようにするソニーの「ロケーションフリー」というシステムを使っている。会員が「ベースステーション」と呼ばれる専用装置を購入して預けると、まねきTVが一括管理して、東京地区のテレビ番組が受信できるようにする。そこで受信された番組がベースステーションからインターネット経由で会員のパソコンに送信され、どこでも東京のテレビ番組が視聴できるようになるという仕組みだ。

   まねきTVを利用すれば、地方や海外に住んでいても東京のテレビ局の人気番組を視聴できるというメリットがある。しかしテレビ局にとっては悩みの種。このようなサービスが普及すると、地方局の視聴率が下がり広告収入に打撃が出てしまうおそれがあるほか、オリンピックのように国ごとに厳重な管理が求められる国際映像も海外で自由に見られるようになってしまうからだ。

   まねきTVは会員数わずか数十人の零細サービス。仮にテレビ局に損害が発生しているとしても、ごく少額にすぎない。だが、似たようなサービスが雨後のタケノコのように増殖することを恐れて、テレビ各局はスクラムを組んでまねきTVを叩きつぶすことにした。

   しかし、裁判所はテレビ局の主張を認めなかった。知財高裁の三村量一裁判長は、「(まねきTVは)各利用者のベースステーションを預かって、電源とアンテナの接続環境を供給するだけだ」として、まねきTVはテレビ局の送信可能化権(著作隣接権の一つ)を侵害しているわけではないと結論づけたのだ。

「勝って当然だと思っていた」

   これに対して、テレビ局は連名で「今回の決定には不服ですので、最高裁判所に抗告の申し立てを行う予定です」というコメントを発表。テレビ局とまねきTVの争いは最高裁に舞台を移して争われることになるもようだが、まねきTVを運営する永野商店の永野周平社長は「もういい加減にしてほしい」と憤っている。

   「まねきTVが行っているのはテレビの受信に必要な機器のハウジングサービスにすぎないから、勝って当然だと思っていた。うちのような中小企業にとっては、弁護士費用や資料のコピー代などで多額の費用が発生したことは大きな負担だった。テレビ局ももう勝ち目がないのだから、無駄な裁判はやめてほしい」

   また、著作権問題に詳しい岡邦俊弁護士は「放送事業者は、放送に関連する新たなサービスや物品の販売の出現に過剰な拒絶反応を示しているといえる。しかし放送は本来、無料の視聴者、視聴機会、視聴場所が増加することによって損害が発生するというメディアではない。その意味で、知財高裁の結論は妥当といえるだろう」と話している。