J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

ボルボの日産ディーゼル子会社化 TOB価格に投資家は不満

   スウェーデンの大手トラックメーカー、ボルボは2007年2月20日、傘下のトラックメーカーである日産ディーゼル工業に対して株式公開買い付け(TOB)を 実施し、同社を100%子会社化すると発表した。世界の主要トラックメーカーの間で激化しつつある次世代エンジン開発競争に備えるのが大きな目的で、両社は同日開いた会見で、グループ一体で経営を進めることが最善の選択だと説明した。世界的に厳しさを増す環境規制強化に対応するため、国境を超えたトラックメーカーの連合形成が活発化している。

排ガス規制への対応が子会社化する最大の理由

ボルボの日産ディーゼル子会社化に注目集まる
ボルボの日産ディーゼル子会社化に注目集まる

   TOBは3月23日まで実施する。買い付け価格は、過去3カ月間の単純平均価格に約3割のプレミアムを上乗せした1株540円。ボルボは現在でも同社の発行済み株式の19%を保有する筆頭株主で、100%取得できた場合の買い付け総額は、1,683億円となる。TOBが成立すれば東証1部上場の日産ディは上場廃止となる。外資傘下のトラックメーカーは、独ダイムラークライスラーが85%を出資する三菱ふそうトラック・バスの先例があるが、100%子会社は初めて。

   日産ディは元々、日産自動車系列のトラックメーカーだったが、日産が乗用車事業に経営資源の集中を図るため、06年3月と9月、保有する日産ディーゼル株19%をボルボに売却していた。

   日本や欧米では、ディーゼルエンジンから排出されるPM(粒子状物質)やNOx(窒素酸化物)の規制が段階的に強化される。日本の場合、トラッ クのPMとNOxの排出量を09年以降、現在より3分の1程度まで削減することが義務づけられる。会見したボルボのヨルマ・ハロネン最高経営責任者 (CEO)代理は「排ガス規制への対応が、日産ディを子会社化する最大の理由だ」と述べ、「19%の出資だけでは(新エンジン開発などで)素早い意志決定 ができない」と述べた。
   日産ディが持つハイブリッド技術などをボルボが取り入れ、グループ全体の商品開発力を高めることを狙う。また、日産ディを通じてアジアでの事業強化につなげる。

買い付け価格は公募増資の発行価格の3分の2

   一方、日産ディにとっても、ボルボから財務の全面サポートを得る利点は大きい。仲村巖社長が就任した02年以降、有利子負債削減に取り組み、財務体質の改善を進めてきた。しかし「短期のリターン(回収)が見込める投資しかできなかった」(仲村社長)といい、今後の技術競争強化や海外販売網の開拓 ではボルボとの一体化が得策と判断した。
   ボルボのTOBが成立すれば上場廃止となるが、仲村社長は「今の最大の望みは成長すること。効率的にやるには子会社化が最適の形だ」と、非公開化による経営の安定性を優先させる考えを示した。

   ボルボとの協議の結果、日産ディの経営体制は現在のまま維持し、ボルボグループのほかの欧米トラックメーカーと対等の位置づけにすることなどを認めさせたという。社名も「顧客に浸透している」とし、日産ディーゼル工業のまま変更しないとい、経営陣には悪くない話だ。
   だが、投資家の間から不満の声が上がる。ボルボが発表した日産ディ株式の買い付け価格540円は、05年12月に日産ディが実施した公募増資の発行価格824円の3分の2。ボルボは現在の市場価格に3割のプレミアムを上乗せしているとはいえ、前回の公募増資に応じた投資家は、経営陣のように喜んでいられない。仲村社長は会見で「公募増資後、株価が低迷しているのは残念。ぜひともご理解頂きたい」と話すにとどまった。