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「三角合併」解禁きっかけに 買収防衛策導入の動きが加速

   敵対的買収を阻止するために買収防衛策を導入する企業が急増している。野村証券金融経済研究所によると、5月中旬までに防衛策導入済みと、導入予定の上場企業は累計300社を超えている。外資による日本企業の買収が容易になるとされる「三角合併」が2007年5月に解禁されたこともあり、企業の買収に対する危機意識が高まっている。

   東証1部やジャスダックなど全国の証券取引所に上場している企業のうち、9%程度が防衛策の導入を発表済みだ。大企業が多い東証1部上場企業に限ると2割に近づく。ライブドアニッポン放送買収を仕掛けた05年には、防衛策を導入した企業はわずか27社だったが、06年には151社に上り、今年はさらに導入の動きが加速している。

「防衛策は経営者の保身」との批判に配慮

   多くの企業は防衛策導入について、はじめは状況を見守る姿勢だった。だが、06年以降は主な企業が導入を済ませたことで、導入への抵抗が薄れたとされる。さらに、07年5月に三角合併が解禁されたことも大きい。07年年初から4月までに防衛策の導入を発表したのは79社と、前年同期の2倍に上るハイペースで、三角合併解禁が企業の背中を押したのは間違いない。

   07年に入って導入を発表した企業の大きな特徴は、そのほとんどが株主総会で防衛策導入の意志確認を行い、株主に承認を求めるとの意向を示していることだ。これまでは取締役会の判断だけで導入するケースが多かった。それに対しては、「経営者の保身につながる」との批判が多かったため、批判に配慮せざるを得なくなった結果だ。

   導入手法だけでなく、防衛策の中身自体に注目が集まり始めているのも最近の傾向だ。

   アデランスは、同社株約27%を保有する筆頭株主の米系投資ファンド「スティール・パートナーズ」から新しい防衛策の導入提案に異議を突きつけられた。スティールは「株主全体の利益よりもアデランスの現経営陣の自己防衛策として機能する懸念がある」と批判し、委任状集めを展開したのだ。

アデランス、サッポロの経営トップは笑顔で「勝利報告」したが

   結果的に株主総会では、防衛策発動を判断する取締役会などに社外取締役を入れるなどで発動の透明性を高めた、アデランス経営側提案の導入議案が賛成多数で可決された。

   同じようにスティールが防衛策導入に反対し、委任状集めを展開したサッポロホールディングスでも、防衛策発動を決める取締役会に参加する社外取締役の独立性などが問題になった。だが、ここでも経営側の提案が通った。

   アデランス、サッポロとも株主総会の直後に経営トップが笑顔で会見し、「勝利報告」した姿が印象的だった。

   しかし、防衛策の発動を判断する独立委員会や取締役会の「独立性」などには議論が残り、独立委員会などが本当に株主のために判断できる体制になっているかなど課題は山積している。

   だがその一方で、長期的視点での経営、従業員など多様なステークホルダーへの配慮など「日本的経営」を評価する側からは、米国流の「過度な株主重視」への疑問も根強い。

   グローバルなM&A時代の日本の企業経営の「姿」はなお、視界不良だ。