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日産のジレンマ 「OEM供給の軽頼み」

   日産自動車三菱自動車からOEM(相手先ブランドによる受託生産)供給を受けた軽乗用車のワンボックス車「クリッパー・リオ」の販売を2007年6月14日に開始した。日産が扱う軽自動車はこれが5車種目になる。軽ワンボックスの国内市場は年間9万~10万台程度でしかない。クリッパー・リオの目標販売台数も年間4,000台とさほど多くはない。だが、2006年からの登録車(軽以外の小型や普通車)の新型モデル投入が少ない日産にとっては、国内販売での軽自動車依存度が一層高まる可能性もある。それは、「基礎体力を奪うことになるのでは」という不安の声にも繋がる。

   国内の自動車販売全体が少子高齢化の影響や携帯電話料金など他分野の生活出費が増加したあおりで長期低迷している中、軽自動車の販売は維持費の安さや保管場所のスペースが少なくてすむ気軽さから登録車からの乗り換え需要を集め、06年まで順調に伸びてきた。

二ケタ増で総販売台数の軽依存率が2割近くに

新発売の「クリッパー・リオは三菱の「タウンボックス」がベースだ
新発売の「クリッパー・リオは三菱の「タウンボックス」がベースだ

   自前の軽自動車を持たない日産は販売台数の回復を至上命題とするカルロス・ゴーン社長が「年間200万台もの軽市場を黙って見ているのか」と参入を決断し、2002年からOEM車販売を開始した。
   それ以後これまでに、スズキから「モコ」(スズキ名・MRワゴン)と「ピノ」(同・アルト)、三菱からは「オッティ」(三菱名・ekワゴン)と「クリッパートラック/バン」(同・ミニキャブトラック/バン)の供給を受けている。今回新発売のクリッパー・リオは三菱のタウンボックスがベースになっている。

   軽自動車のラインアップを拡充させる理由を、日産の志賀俊之COO(最高執行責任者)はこう語る。

「登録車のお客さまの中には他社の軽に乗り換えていく方もいるので、(ラインアップ拡充は)顧客の流出を防ぐ意味もある。日産ユーザーの中にとどまってもらえると思っている。もちろん新規客も増やせる」

   06年度の日産の軽自動車販売は、06年秋に「オッティ」がフルモデルチェンジし、「ピノ」が07年1月に発売されたことから、前年度比16%増の14万3,810台と二ケタ増を実現した。17万517台の三菱、15万7,549台の富士重工業の軽販売台数にも手が届きそうな勢いだ。

   ただし、06年度の日産の全販売台数は、主要な登録車の新型モデルの投入が「スカイライン」だけだったことが響いて、前年度比17%減の59万6,173台と国内メーカーで最大の落ち込み率だった。この結果、日産の販売台数全体に占める軽自動車の比率は19.4%にまで上昇した。

   「アピールする新車が乏しくタマ不足の中で、軽を売って顧客を懸命につなぎとめてきた」(販売会社関係者)というのが現場の本音だ。

軽から大型セダンに戻るのは至難の業

   ただ、販売不振を反映して国内工場の減産まで実施した日産が、もともと利益率が極めて低く、しかも他社からのOEM供給という厳しい条件下で軽自動車への依存度を高めることに、「軽に一度乗り換えた顧客に次にまた大型セダンなどに戻ってもらうのは至難の業だろう」(同)という不安も広がる。
   日産にとって軽自動車は、販売店のカンフル剤になったとはいえ、長い目で見れば基礎体力を奪いかねない「麻薬」になる危険もはらんでいる。大きなジレンマなのだ。

   07年度の日産は、5月に発売した英国生産のSUV「デュアリス」の初期受注が順調だ。SUV「エクストレイル」とスポーツカー「GT-R」など、いくつかの新型モデルの投入も予定している。
   社内には「07年度の軽市場は、新型車が続々出た昨年度に比べて伸びが止まった。日産の総販売数に占める軽の比率が06年度を上回ることはないのでは」との期待もある。

   志賀COOも「我々日産は、やはり登録車メーカー。顧客の軽への流出を抑えたり、軽から登録車へのお客も増やしたりで、軽販売の比率をこれ以上大きくならないようにしていきたい」と自戒をこめる。

   高まりすぎた軽自動車依存度が、ゴーン改革にかげりも見える日産の先行きを読みにくくしている。