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TBS・楽天の勝敗 スティールの「判例」が影響

   楽天TBSの株式を20%超を取得すると通告し、TBSは楽天に対する防衛策発動の是非を企業価値評価特別委員会(委員長・北村正任毎日新聞社社長)に諮問、特別委は2007年9月12日までに結論を出すべく関係者からの聴取を進めている。結論が「ゴー」となれば、TBSは臨時株主総会を開いて防衛策発動を諮る構えだ。そうなった時には、楽天が防衛策発動の差し止めを裁判所に求める可能性が高い。

   この場合に「判例」として大きな影響を与えるのが、米系投資ファンド「スティール・パートナーズ」がブルドックソースに対して買収防衛策発動の差し止めを求めた仮処分申請での東京地裁と東京高裁の決定だ。両裁判所は相次いでスティールの申請を退けている。だが、その理由には違いがあり、どちらが「判例」とされるかに、楽天とTBSの社会的評判がかかっている。

地裁「株主総会の特別議決」、高裁「スティールは乱用的買収者」

TBSの買収防衛策の是非には、スティールの「判例」が影響しそうだ
TBSの買収防衛策の是非には、スティールの「判例」が影響しそうだ

   ブルドックの買収防衛策は、全株主に新株予約権を無償で割り当てるが、スティールにだけは予約権を行使できない条項を付けて、持ち株比率を下げるというものだ。スティールには株の代わりに現金を渡して、経済価値を損なわないようにする。この防衛策の発動は、株主総会で出席議決権の3分の2以上の賛成による特別決議で承認された。

   防衛策発動の差し止め裁判でスティール側は、買い集めた株を高値で買い取らせて利ざやを稼ぐ「グリーンメーラー」ではないと主張し、ブルドックの株主総会決議は「著しく不公正で、多数決の乱用だ」として差し止めを求めていた。

   地裁と高裁は、ともに防衛策発動の「必要性」と「相当性」を検討し、ブルドック側の主張を認めたが、その理屈は、地裁と高裁ではかなり異なる。

   地裁は「現経営陣と敵対的買収者のいずれに経営を委ねるべきかの判断は、株主によってなされるべき」ことを前提とした上で、防衛策の発動が少なくとも株主総会の特別決議(3分の2の賛成)に基づくものであり、敵対的買収者に「適正な対価」が払われているときは、許容されるとした。

   一方、高裁は、スティールの投資ファンドとしての行動を分析し、「さまざまな策を弄して専ら短中期的に対象会社の株式を対象会社自身や第三者に転売し、最終的には対象会社の資産処分まで視野に入れて、ひたすらに自らの利益のみを追求しようとしている乱用的買収者」であるとして、スティールは「グリーンメーラー」だと認定し、スティールの主張を一蹴した。

「判例」が「高裁決定」なら、両社経営陣の「意図」も問題に

   TBSの買収防衛策もブルドックと同じように、全株主に新株予約権を無償で割り当て、その新株予約権と引き換えに、TBSの企業価値を損なう「乱用的買収者」には現金などの対価を、それ以外の株主には新株を渡すというものだ。ただし、TBSの防衛策の承認と発動はブルドックと違って、ともに株主総会で過半数の賛成が必要な普通決議で決める仕組みだ。TBSは安定株主の確保に成功し、6月末の定時株主総会で出席議決権の77.1%の賛成で防衛策導入が承認された。

   TBSは楽天に対する防衛策発動の是非を判断する企業価値評価特別委員会の結論を踏まえ、株主総会で防衛策発動の承認を求めることになる。防衛策の導入承認の時と同様に、出席議決権の3分の2を超える圧倒的多数の賛成で発動が決められる可能性が高い。

   TBSが防衛策発動を決めて、楽天が差し止めを求めた場合、スティール対ブルドックの地裁・高裁の両決定に沿って判断するとどうなるか。

   地裁決定では、「会社経営に関する判断は、基本的に株主総会に委ねられる」としており、TBSが株主総会で特別決議並みの賛成で承認を得られれば、一応、有利な立場にたてる。そのうえで裁判所は、防衛策発動に伴って楽天に支払われる現金などの対価が、楽天の経済的利益を損なわない適正なものであるかどうかを検討して、発動の是非を判断するとみられる。ブルドック裁判での地裁の判断に則れば、必ずしも、楽天が「乱用的買収者」であるかどうかを認定する必要はない。

   これに対して高裁決定に従うなら、裁判所が楽天やTBS経営陣の「真の意図」にまで踏み込んだ判断を行い、楽天がTBSの企業価値を損なう「乱用的買収者」に当たるかどうかの判断をすることになる。

   楽天によるTBS株取得の経緯、その最終的な目的、楽天のTBS株買い増しによるメリットとデメリット、TBS経営陣の保身の有無などについて、踏み込んだ判断を示す可能性がある。その場合、裁判所の結論次第では、楽天かTBS経営陣のどちらかに、ビジネス社会での評判が傷つくリスク(レピュテーションリスク)がありそうだ。