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「健康不安」?「スキャンダル」? ひよわな宰相不可思議な辞任

   おととい所信表明演説をしたばかりなのになぜ…。安倍晋三首相が2007年9月12日、涙目で唐突に辞任を明かしたことは、様々な憶測を呼び起こした。野党が優勢の国会に対する「自信喪失説」に、生気が失せた最近の表情から読み取る「健康不安説」、さらに週刊誌報道を知ったことによる「スキャンダル説」まで出て。テロ特措法に代わる新法成立に職責を賭けるとまで言った首相に、何があったのか。

「まったくのお坊ちゃん」と塩川正十郎さん

首相官邸の記者会見で辞意を表明した安倍首相。テレビ局各局は、その表情を「涙目」と報じた(NHKより)
首相官邸の記者会見で辞意を表明した安倍首相。テレビ局各局は、その表情を「涙目」と報じた(NHKより)

   大勢の記者が詰め掛け、ざわめきも漏れる政府官邸の記者会見場。安倍首相は、9月12日午後2時きっかり、いつものように足早に入ってきた。壇上に立った首相は、背筋を伸ばして周りを見渡した。無表情を装ってはいるものの、心なしか目に涙が浮かんでいるように見える。

「えー、本日、総理の職を辞すべき決意を致しました」

   その言葉を言い切ると、あとはさばさばした表情で、辞任に至った経緯を10分間にわたって述べた。

   安倍首相は、8月27日に内閣改造を終え、9月10日に国会で所信表明演説をしたばかりだ。しかも、辞任表明した12日は、国会での代表質問が始まることになっていた。それを投げ出していきなり辞めることに、与党内からも「想像がつかない」「政治は自分のものではない」と不満が噴出している。

   首相自身は、辞任を決めた理由を、主に2つ挙げた。それは、民主党の小沢一郎代表にテロ特措法の新法成立へ向けた会談を12日に申し入れたが断られたこと、この局面を打開するのは自分よりも新首相の方がふさわしいと考えたことだ。

   ところが、小沢代表は12日の記者会見で、会談の申し入れは今回が初めてであること、明確に断ったわけではないことを明らかにした。そこで、首相の真意が別にあるのではないかと疑念が高まっている。

   テレビ各局では、異例の辞任劇に、早速コメンテーターが憶測を始めた。TBSでは、元財務相の塩川正十郎さんが、首相が泥臭い交渉をすぐにあきらめたと指弾して、「まったくのお坊ちゃんということ」と切り捨てた。また、フジテレビでは、キャスターの木村太郎さんが、「自分の中の気力が急になえてしまったのではないか」とバッシングの嵐による嫌気を指摘した。

   こうした「自信喪失説」に対し、実は健康面で不安があったことを明かす自民党関係者もいた。それは、「与謝野―麻生ライン」と呼ばれ、内閣の人事権を握っていたとされる与謝野馨・官房長官と麻生太郎・自民党幹事長の両氏だ。与謝野氏は、12日の記者会見で、「病名などについては詳しく言えないが、相当な仕事と自分の健康の両立に深い苦悩の中にあった」と明かした。首相自身は会見で触れなかったが、「健康問題に逃げ込むことはいやだとの美学だと理解している」と述べた。だが、政権を支えていただけに、何とか辞任の理由を正当化したいという意図がにじんでいた。

スキャンダル説も急浮上

   一方、「スキャンダル説」は、思わぬところから上がってきた。9月12日午後3時10分配信の毎日新聞のネットニュースが、なんと「<安倍首相辞意>『週刊現代』が『脱税疑惑』追及で取材」とすっぱ抜いたのだ。そこでは、「週刊現代」編集部によるとして

「安倍首相は父晋太郎氏の死亡に伴い、相続した財産を政治団体に寄付。相続税を免れた疑いがあるという」

と書かれていた。「週刊現代」編集部は、安倍首相サイドへの質問状の回答期限を、奇しくも首相が辞任会見した12日午後2時としていたという。

   本当なのか。J-CASTニュースが、事実関係を確かめようと、講談社の「週刊現代」編集部に取材した。すると、加藤晴之編集長は

   「毎日新聞の書きようは違うし、コメントを見て下さい」と電話で話した。毎日の記事は数時間後には消えてしまったが、加藤編集長は次のようなコメントをFAXしてきた。

「本誌取材班が数カ月間取材・調査をしてきた成果である『安倍首相の相続税3億円脱税疑惑』を今月15日土曜日発売号で報じることが、政界で話題になっていることは聞いています。すでに安倍事務所にも取材の申し入れを終えています。その記事が安倍首相を辞任に追い込んだのではというメディアからの取材が、本誌編集部にも多数入っています。記事の詳細は15日発売の『週刊現代』で報じます」

   この脱税が事実とすれば、退陣の大きな理由になる。J-CASTニュースでは、確認しようと、国会と山口・下関の安倍事務所に取材を申し入れた。が、国会事務所はだれも電話に出ず、下関事務所では、電話に出た事務員が「責任者が、今ちょっと手が離せません。申し訳ありませんが、改めて下さい」と話した。