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「仮想通貨」不正に巨額換金 それでも「没収」されない不思議

   150万人以上のユーザーが登録している国内最大のオンラインゲーム「ラグナロクオンライン」で使われる仮想通貨「Zeny」を不正に産み出し、現金に換金して入手した事件を巡って、運営会社の信用を傷つけたとして元社員に賠償金を支払うよう命じる判決が出た。しかし、賠償するよう命じられた額は仮想通貨で得た現金よりはるかに少なく、元会社員は巨額の富を得たまま。法律的に仮想通貨が「無形」であることで、バーチャルとリアルをめぐる「ねじれ」現象が浮き彫りになっている。

約5,800万円の利益に対し、支払いは約330万円?

「仮想通貨」を不正に巨額換金した事件で賠償命令が下された(写真・東京地裁)
「仮想通貨」を不正に巨額換金した事件で賠償命令が下された(写真・東京地裁)

   ガンホー・オンライン・エンターテイメント(東京都千代田区)が運営する「ラグナロクオンライン」で使われる仮想通貨「Zeny」を不正に産み出し、現実の金銭に換金した事件をめぐる訴訟で、東京地方裁判所(綿引穣裁判長)は2007年10月23日、元同社社員の男性(27)の行為が同社の信用を毀損したとして、約330万円を支払うよう元会社員に命じた。

   同ゲームは一部の社員にのみアクセスできる運営管理プログラムを用いてゲームのメンテナンスをしていたが、この男性は上司の机の引き出しにあったIDの書かれた紙片を盗み見て、ゲームの中で流通している仮想通貨を増やし、RMT(リアルマネートレード)業者を通じて仮想通貨を現金に換金していた。この男性は06年7月19日に解雇された。

   また、不正アクセス禁止法等に関する法律違反で起訴され、06年10月24日には懲役1年(執行猶予4年)の有罪判決を受けている。この裁判では、運営会社ガンホーに与えた損害について争われていた。

   判決文によれば、ガンホーは元社員が仮想通貨との換金で約5,800万円の利益を得たと主張。内部管理体制に不備があるとの印象を与えたことや、オンラインゲームの課金収入(会費)が減少したなどの理由から、信用を傷つけられたとして、約7,500万円を支払うよう要求していた。これに対し判決は、「この男性の不正行為と直ちに因果関係を有する損害とみることはできない」「被告が利益を得た事実は信用毀損による無形の損害額を算定する1つの事情として考慮される余地があるにとどまる」と述べ、ガンホーが要求する金額よりはるかに低い330万円を支払うよう命じた。

規定では仮想通貨の現金換金は禁止

   「ラグナロクオンライン」では仮想通貨が流通しており、ユーザーは仮想通貨でアイテムを入手したり、モンスターを倒すことで仮想通貨を入手するなどしてゲームを楽しむ仕組みになっているうえ、ガンホーの規定では仮想通貨については現金と換金することを禁じている。しかし、仮想通貨と現金を交換するRMT業者が出現。中国人などの外国人に安い賃金でゲームをさせて、仮想通貨を大量入手させ、現金を得ようとする組織が現れたり、詐欺が横行するなど、社会問題にもなりつつある。ガンホーIR担当者はJ-CASTニュースに対して、RMTを禁じている理由を「ゲームの世界観を維持して、RMTに伴う問題を回避したいため」と説明している。

   一方で、仮想通貨を現金に換金するRMTの行為自体は違法ではないとされており、法律的に取り締まれない現実もある。今回の裁判でも、不正アクセスした男性には「信用を傷つけた」とする330万円の賠償金支払いが命じられているだけで、結果的に、巨額の富を得たことについては社会的に制裁を受けないかたちになっている。

   米リンデンラボ社が運営する「セカンドライフ」では、仮想通貨「リンデンドル」を現金で購入できるほか、米ドルに換金できる。これがセカンドライフ内での経済活動を活発にさせる一因になってはいるが、一方で米国ではこの仮想通貨による収入に対する課税ルールについても検討がなされているなど、RMTはバーチャル世界だけの問題とは言いがたい側面もある。

   ガンホーは今回の判決について、「判決が届いたばかりなので、内容を精査して今後の方針を決めたい」とコメント。ガンホー側代理人は

「今回の裁判ではRMTについて言及されていない。ゲーム運営会社の社員が不正に仮想通貨を増やして換金したという点でかなり例外的なケースで、ユーザーに影響を直接与えることはない」

と述べている。